「大幅値引き」から救った飼い主が突然死 噛み癖と無駄吠えを起こした犬、新たな里親のもとでゴロゴロ幸せに
運命の出会い
ラッシュくんとのお見合いの会場は、動物愛護団体のシェルター。Y家は全員で参加です。ラッシュくんはXさんの兄弟が連れてきてくれました。ドキドキのお見合い、Yさんは一目でラッシュくんを気に入ります。ラッシュくんもまた、Xさんと同年代のYさんに親近感を抱いたよう。 お試しでY家の人たちだけでラッシュくんのお散歩をさせてもらったのですが、心配された無駄吠えも噛み癖もありません。むしろ、よく躾を受けていると分かるお利口さんです。なんと、Yさんが歩きやすいように歩調を合わせてくれるんですよ。 ラッシュくんを気に入ったY家は、その場でトライアルの申し込みをします。Xさんの使命も受け継ぐつもりで、申し込みをしました。自分たちはラッシュくんの幸せ係の後任者だと。 帰宅後は逸る気持ちをおさえつつ、お迎えの準備です。準備の最中、新しい名前を付けることも検討されました。ところが、ラッシュくんを思い出すと「ラッシュ」という名前しか浮かんできません。これに気づいた時、Yさんは思ったんです。 「前任者が最適な名前をつけてくれた」
禁忌を破って初めての犬
2021年5月31日、約30年間ペット禁止だったY家に初めての犬、ラッシュくんがやってきました。Yさんは自分の家に犬がいることが新鮮で、今は離れて暮らしている長男に喜びの電話をかけました。犬を迎えたと伝えると、長男はビックリして言ったんです。 「母さんが怒るぞ!」 その「母さん」がいないことを受け入れるために、犬を迎えたのにね。 さあ、ラッシュくんは妻が生きていたら怒りそうなことばかりせっせと行います。人間は噛みませんが、クッションや椅子の背もたれはガブガブ。思わず廊下でダッシュをしてしまうと、床は傷だらけ。壁もラッシュくんの背が届くところは、所々傷がついてしまいました。 それまで画鋲すら壁に刺すことを禁じられていたYさんは、これを見て妻を思い出すんです。「ああ、怒りそう」「すっ飛んできて片づけそう」などなど。そんなことを笑いながら言い合います。 いつの間にか妻は、家族の悲しい別れの記憶ではなくなっていました。想い出になっていたんです。そうしてくれたのは、ほかならないラッシュくん。