『宙わたる教室』小林虎之介の“火星を作る”が新たな目標に 前例のない挑戦が未来を作る
岳人(小林虎之介)の「火星を作る」という言葉がヒントに
だけど、今の藤竹には気落ちしている部員たちを気分転換にと天体観測に誘うのが精一杯だったのかもしれない。屋上にテントを張り、キャンプのような雰囲気で少し気分は紛れるも、門前払いされたことが頭から離れない科学部のみんなに力を与えてくれたのは、岳人たちと同じ2年生の麻衣(紺野彩夏)だった。事情を知った麻衣はいつもの明るい調子で「そんなん気にしてどうするの?」と言葉をかける。麻衣はシングルマザーで、元夫に親権を取られないためにキャバクラで働きながら娘を育てていた。定時制に通っているのは、いつか自分のお店を持ちたいから。それだって立派な夢なのに、母親というだけで、あまり例がないというだけで白い目に晒されることもある。でも、文句を言うだけで助けてもくれない人間に構う必要などない。 「大事なのは、自分たちが何をしたいかでしょ。ここでできないなら、できるとこ探してやればいい。やっちゃうんだよ、やったもん勝ち!」 そんな自分たちと同じく逆境にさらされながらも、なにくそと前に進む麻衣の飾り気のない言葉が科学部の生徒たちだけではなく藤竹の心を救い、彼らの意識を広い世界へ向ける。見上げた夜空には、無数の星が広がっていた。なかには、まだ名前がついていない星もたくさんあり、藤竹は「この宙にはまだ知らないことが無限に広がっています」とみんなに語りかける。同じように、その場にいる全員が無限の可能性を秘めている。星に負けないくらい各々の光を放つ彼らが少し距離を開けて真夏の夜を見上げる姿は、まるで一つの星座に見えた。 そしてまた一から大会に向けて準備を進める中、佳純が火星特有のクレーターを再現する実験を提案する。それは、岳人が見学の際に他校の生徒に研究テーマについて問われ、咄嗟に返した「火星を作る」という言葉をヒントにしたものだった。あの時、周囲にいた人間は嘲笑したが、すべての発見はそういう一見、素朴な興味関心から生まれる。けっして馬鹿になどできないし、馬鹿にされない社会であってほしい。
苫とり子