パーキングエリアで安らぎを トイレ清掃員が届ける「ひとりごと」
山形県南陽市の東北中央道下り線南陽PA(パーキングエリア)。トイレと自販機しかない小さな建物に入ると、折り紙で作ったサンタクロースやクリスマスリース、手作りのどんぐりの置物が飾られている。片隅に置かれた小さな黒板には、「清掃員吉田のひとりごと」と題した短いメッセージが書かれていた。 【写真まとめ】折り紙が飾られた南陽PAのトイレを掃除する吉田さん 辺り一帯が雪景色となった南陽PAには、トラックの運転手や観光客が行き交う。黒板にはチョークで「秋にでっかいどんぐりを『ご自由にお持ちください』と差し上げてたんですが、先日会社に『とても嬉(うれ)しかった』とメールが来ました」とあった。このひとりごとを書いているのは、「置賜総合開発」(米沢市)の従業員でPAのトイレ清掃を担当する吉田利衣(りえ)さん(47)だ。 早朝の凍(い)てつくような寒さの中、手際よく掃除を始めた吉田さん。「おしょうしな(ありがとう)」と親しみを込めて利用者に方言であいさつし、明るく語りかけた。「今日は寒いですね。道は凍っていませんか」。初めてPAに立ち寄った福島市の二階堂佳加さん(47)は「大丈夫でした。それにしてもきれいなトイレね。どんぐりの置物もすてき。癒やされるわ」。吉田さんは「いいでしょう。これ、私の手作りなの」と笑顔で返した。 吉田さんがトイレ清掃の仕事に就いたのは5年前。人と接するのが好きで元々は米沢市の牛肉店の食堂で働いていたが、南陽PA開設を前に当時の社長に誘われて転職。当初は今の仕事を楽しめるかどうか不安で、会社が目指す「日本一きれいなPAのトイレに」するために自分に何ができるか考えた。 そんな中、「身の回りの面白いことをお客さんと共有できたら」と、PAの黒板に季節の移ろいや身近な出来事などを書き始めた。勤務先に届いた利用者の声にも一人一人丁寧に答え、得意のイラストを添えた。最近は利用者が撮影した写真を展示するコーナーもつくった。 トイレの壁を彩る折り紙は、南陽高畠IC(インターチェンジ)詰め所(高畠町)で働く同僚の島扇美智代さん(57)と井上栞里さん(29)が仕事の合間に作っている。1カ月に1回、それぞれの季節をテーマに飾りを変える。 最近、利用者から「あの吉田さんですよね」「また来たよ。今月の飾りもかわいいね」などと声を掛けられるようになった。「この仕事は一期一会。お客さんとの出会いを大切にしていきたい」。そんな思いを黒板のメッセージや折り紙に込める。「PAで安らぎを」という吉田さんらの思いは厳しい冬の殺風景なPAを温かな空間に変えている。【竹内幹】