デフレとゼロ金利制約との闘い「終焉は視野に」-内田日銀副総裁
(ブルームバーグ): 日本銀行の内田真一副総裁は27日、過去25年間の金融政策運営におけるデフレとゼロ金利制約との闘いの終焉(しゅうえん)が視野に入ったとの見解を示した。日銀が本店で開いた国際会議における英語での講演内容の翻訳を公表した。
内田副総裁は、3月に短期政策金利の操作を通じて2%の物価安定目標を目指す伝統的な金融政策の枠組みに戻ったことは「ゼロ金利制約を克服したことを意味する」と説明。インフレ予想を2%にアンカーしていくという大きな課題は残っているが、「デフレとゼロ金利制約との闘いの終焉は視野に入った」と語った。
大きな論点は、現在の物価動向が不可逆的なデフレからの構造変化を意味するのか、単に世界的なインフレに伴う一時的な現象にすぎないかだと提起。構造変化に必要なデフレ自体の解消とデフレ的なノルム(慣行)の克服について、労働市場の不可逆的な変化を踏まえて前者は「自信を持ってイエスと答えられる」とする一方、後者は「答えはそこまで明白ではない」とした。
日銀では、日本経済のデフレ状況が長期化した要因として、物価・賃金が上がりにくいというノルムの存在を指摘しており、植田和男総裁は4月の記者会見で「ノルムが変わりつつある」と発言していた。内田副総裁は断言こそしなかったものの、デフレ脱却への前向きなトーンを強めた形だ。
人手不足
内田副総裁によると、デフレ的なノルムの克服の鍵を握るのは労働市場だ。人手不足を推進力に労働市場の構造変化が持続する限り、「企業は働く従業員を保持し、引きつけるために、十分な利益と賃金を生み出すビジネス・モデルを構築しなければならない」と指摘。価格設定においても労働コストの変化に応じて、「メニュー表を速やかに書き直す必要が生じる」という。
日銀が2013年以降に導入した大規模な金融緩和政策は、政府の施策と相まって10年間にわたって経済に高圧をかけ続け、「雇用環境を人手不足の方向へ徐々に変えてきた」と説明。その上で近年の世界的なインフレが「デフレ的なノルムに対する最後の一押しとして作用した」とし、「今回こそはこれまでと違う」と締めくくった。