アニメ化で話題 戦隊ヒーロー×異世界転生『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』で反照した“赤“の重要性
赤は強い。そして正しい。日本が世界に誇る戦隊ヒーローの鉄則が、異世界を舞台に存分に発揮される物語が、中吉虎吉による漫画『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』(ガンガンコミックス)だ。2025年1月からTVアニメの放送も決まって、絵だけでも存分に伝わってくる熱さと激しさが、叫びと動きを伴って繰り出されて世界を席巻しそうだ。 代々務めてきた“王家の杖”の座を奪われ、没落したアールヴォン家の令嬢イドラは、功績をあげて王家に取り立てもらうために、新しい魔導技術を生み出そうとしていた。研究には希少鉱石が必要で、採集を手助けしてくれる冒険者を求めてテストを繰り返していたところに現れたのが謎の新人冒険者。入ってくるなりテスト用のゴーレムを人さらいと見なして戦いを挑み、事情を知っても戦いを止めずそのまま奇妙な動きを見せる。 「絆装甲(バンソウブレード)セット!!」。そう叫んで腕にはめた装置に触れると、装置から「ぺっTURNN(ターン)!!」という声が出た。そして、冒険者が腕を折り曲げ伸ばし重ねて「絆装チェンジ!!」と叫ぶと、ド派手な爆発が起こって奇妙なマスクを被ったピチピチスーツ姿の人物が現れた。しかも真っ赤な。 現代人ならそれが戦隊ヒーローのリーダー格として不可欠なレッドだとすぐ気づく。触れた装置は変身のためのアイテムで、そこに何かデバイスを挿入したのだろう。腕を振ったり重ねたりしたのも変身のためのポーズ。最後に爆発したのは戦隊ヒーローの登場をすごいことだと思わせる演出だ。 それはおおむね当たっていて、大いに間違っていた。戦隊ヒーローにありがちな変身プロセスを経て、「キズナレッド」という名の仮面のヒーローが現れた瞬間に発生した大爆発は、演出ではなく本物でイドラの屋敷を壊し、芝生を爆散させた。 異世界という場所でも変わらず戦隊ヒーローもののお約束がなぞられることで、そうしたカテゴリーのファンを喜ばせながらも、なんとなく抱いていた「なぜ爆発?」という疑問を浮かび上がらせ、本当の爆発として表現して笑わせる。 『月刊少年ガンガン』の2020年11月号から連載が始まった『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』は、そんな冒頭の描写だけで傑作に値する作品だった。加えて作者は、イドラという異世界人の感性を通して、戦隊ヒーローならではの特殊性に激しく突っ込んでみせた。 「あの趣味の悪い真っ赤な格好は一体なんなの?」。これには、浅垣灯悟と名乗った新人冒険者ともども「ええ!?」と返したくなっただろう。当然だからだ。伝統だからだ。 これが異世界ではまったく通じない。単行本の第5巻でイドラと共に孤児院を訪れた灯悟は、子供たちに変身した姿を見せて「どうしてそんなピチピチで真っ赤な服を……?」と言われ、「ち…血塗れの怪人!?」と引かれ、「……マジでどうしてそんな配色にしちゃったの?」「全身真っ赤は流石に攻めすぎだろう…」と呆れられてしまう。 言われてなるほどと気づかされる。どうして赤なんだろうという思いが浮かぶ。 振り返れば、1975年にTV放送が始まったスーパー戦隊シリーズの原点『秘密戦隊ゴレンジャー』の時から、戦隊ヒーローのリーダーは赤かった。2024年3月から放送のスーパー戦隊シリーズ最新作『爆上戦隊ブンブンジャー』のブンレッドも、その名の通りにしっかり赤い。 どうして赤なのかには諸説あって、子供が好きな色だからとか、カラー放送で目立つからといった理由が挙がるが、『ゴレンジャー』以前は決して定番ではなかった。『ウルトラマン』(1966年)は銀色で『仮面ライダー』(1971年)は黒かった。一方で、『ウルトラセブン』(1967年)や『スーパーロボット レッドバロン』(1973年)のように赤いヒーローも存在した。 『ゴレンジャー』より1年早く始まった、同じ石ノ森章太郎原作の『がんばれ!!ロボコン』のロボコンも赤いボディを持っていた。石ノ森作品では、1964年から連載が始まった漫画『サイボーグ009』の主人公たちも赤いスーツを着ていた。劇場公開された最初のアニメ『サイボーグ009』(1966年)では009だけスーツが白に変えられた代わりに赤いマフラーをなびかせていた。これは同じ石ノ森ヒーローの仮面ライダー1号にも受け継がれた。 赤は強い。赤は正しい。ロボコンはおっちょこちょいだが正しくあろうとしている点はヒーローたちと同じだ。そうした背景もあって、『ゴレンジャー』で赤がリーダー格の色となり、半世紀にわたって受け継がれてきたイメージについて、異世界の視点から今一度問い直してみたのが『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』という作品だ。そして同時に、改めてレッドこそが最強で最高のヒーローなのだということ、今一度示そうとした作品なのだ。 その上で、繰り広げられる冒険と戦いのストーリーでもしっかりと読む人を引きつけて離さない。どこからともなく不思議なアイテムを取り出して空を飛び、敵を斬り裂き、果ては巨大ロボットまで呼び出して戦う“戦隊ヒーローあるある”ぶりに、イドラが驚き敵も慌てる様を見せ、戦隊ヒーロー好きをニヤニヤとさせ続ける。そうした技や武器の使用に当たって、「絆」というものを必要とすることで、キャラクターたちの関係性に意味を持たせている。 灯悟とイドラのコンビに、アヴァルロスト皇国の第三王女で国を蝕む謎の魔道具“魔力の種”の撲滅に挑むテルティナと、彼女の従者でテルティナに異常なまでの忠誠を誓う勇者ロゥジーも加わったパーティーは、行く先々で圧政を続ける領主や魔王の復活を目論む魔王族と出会い、戦いとなる。イドラたちを呆然とさせた戦隊レッドの異世界パワーも届かない強さを持つ敵に、正義の心だけでは負けそうになることもある。 そんな時、灯悟を毛嫌いするロゥジーが協力し、絆の力を高めて突破していくような展開から、信じる心の大切さを感じ取ることができる。絆を深め、キズナレッドが持つ力を潜在的なものも含めて絞り出しながらエスカレートしていく戦いを乗り越え、冒険を続ける楽しさを味わえる。 その過程でまだまだ驚きの現象が起こりそう。重要となるのが、異世界に転生したのはレッドだけではないかもしれないということだ。これは灯悟の仲間にも当てはまり、そして敵だった絶縁王と秘密結社・ゼツエンダーのメンバーにも言える。戦隊レッドがたった1人で異世界の常識を粉砕するなら、戦隊ヒーローの味方も敵もそろって現れたら一体何が起こるのか? そんな興味を抱かせながら原作は連載が進み、単行本も8月9日に最新の7巻が発売された。 読めばその破天荒な世界観を先取りできるが、映像と音声で楽しめるTVアニメの放送を待つのもひとつの手。数々のスーパー戦隊シリーズでスーツアクターを務め、モーションキャプチャアクターとしても活躍してきた小川晃輝が変身モーション監修を担当。特撮ヒーロー作品の監督を務めた鈴村展弘が変身モーションディレクターを担当するなど、特撮の技と知識がアニメに取り入れられるからだ。 漫画でも迫力のシーンがアニメではどう描かれるのか? 今から楽しみで仕方がない。変身時の爆発も、これはら屋敷が壊れて敵も吹き飛ばされて当然の迫力を持ったものとなるはずだ。
タニグチリウイチ