就職戦線で存在感高める「専門職大学」って何? ある学長に聞いた
【目からウロコ 大人の寺子屋】 中村伊知哉さん(情報経営イノベーション専門職大学学長) 中国で69兆円市場、日本にも上陸した「ライブコマース」って何? TVショッピングの違いは? いま就職戦線において、にわかに存在感を高めているのが、2019年に生まれた“新発想”の高等教育機関「専門職大学」だ。大学と専門学校のいいとこ取りともいえ、今年4月現在20校の専門職大学、3校の専門職短期大学、1学科の専門職学科がある。ジャンルは農林、電気自動車、医療、ファッション、経営、工学、美容、アニメ・漫画、フードサービス、観光、動物看護などさまざま。企業からは即戦力の人材が確保できると期待されているが、「そんな大学が新しくできたなんて知らなかった!」という人も多いだろう。そこで専門職大学の一つ「情報経営イノベーション専門職大学(iU)」の中村伊知哉学長に話を聞いた。(前後編の【前編】) ◇ ◇ ◇ 【Q】専門職大学はどのようにして誕生した? 文字通り「専門職」、つまり特定の職業に就くための実践的かつ専門的な能力を育成することを目的としています。 これまでも日本には多様な高等教育機関がありましたが、アカデミックな学問追究を重視する大学と、実学一辺倒の専門学校の間には大きな隔たりがありました。 しかし、社会が大きく変化し、新たな課題が次々に生まれるなか、大学の知と専門学校の技をどう組み合わせるかが問われるようになりました。特に重要なのは実社会との関わりです。例えばグーグルは、スタンフォード大学の学生プロジェクトとしてスタートしたことは有名な話ですが、日本でも同じようにビジネスに直結する学びの環境が求められています。 専門職大学はそうした社会的ニーズに応え、これからの時代を担う人材を育てるという使命のもと、教育界に新たに船出しました。 【Q】具体的にはどのような教育を行う学校? 専門職大学の大きな特徴は、実務家教員の存在と、長期インターンシップの必修化の2点です。 まず教員の4割以上は企業などで活躍した実務家であることが法令で定められています。最先端の知見やノウハウを持つ実務家から直接学べる環境は、専門職大学ならではだと思います。 もう一つ、インターンシップについては、4年制の場合は通算600時間以上が必須とされています。学生を長期間企業に送り出し、実社会での学びを教育課程に組み込む。大学と産業界が一体となって人材育成に取り組む姿勢のあらわれだといえます。 もちろん学生を送り出すだけでなく、大学と受け入れ先企業の間で綿密なコミュニケーションを取ることが肝要です。そうした実務的なことは、これまでの大学は苦手とするところでした。実際、企業からの産学連携の期待は非常に高まっています。 【Q】専門職大学はどのような学生が向いている? 弊校には本当にさまざまなバックグラウンドやキャリアを持つ学生たちが集まっています。出身高校の偏差値も40~70とかなり幅があります。ただし、彼らに共通しているのは、社会に出て専門性を発揮し、活躍したいという強い思いです。特定の分野にチャレンジする明確な目的意識を持っているのも特徴ですね。 それを端的に表しているのが在学中の起業数です。去年、1学年で立ち上げたのは31社でした。1人でつくるのはまれですので、仮に5人でつくったとすると150人、つまり1学年ほぼ全員が起業したことになります。 そのように、多様な価値観と経験を持つ学生たちが切磋琢磨し、学び合う。まさに社会の縮図のようなダイナミズムを大学の中につくることができるのは、専門職大学の大きな魅力だと感じています。 =つづく (聞き手=いからしひろき) ▼中村伊知哉(なかむら・いちや) 1961年京都府生まれ。京都大学経済学部在学中はバンド活動に従事し、ロックバンド少年ナイフのディレクターを務めた。84年郵政省入省。スタンフォード日本センター研究部門所長、慶応義塾大学教授を経て、2020年4月からiU学長に就任。著書に「新版 超ヒマ社会をつくる」(ヨシモトブックス)など多数。