意外と多い、「根性論を持ち込む上司」が暴走しやすいのには理由があった
根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。5万部突破ベストセラー『職場を腐らせる人たち』では、これまで7000人以上診察してきた精神科医が豊富な臨床例から明かす。 【写真】知ったら全員驚愕…職場をダメにする人の「ヤバい実態」
「軽躁状態(hypomanic state)」の可能性も
目の前の現実を直視したくないと、「マニック・ディフェンス(manic defense)」によって「軽躁状態(hypomanic state)」になることもありうる。 マニック・ディフェンスは防衛機制の一つであり、「躁的防衛」と訳される。困難な事態に直面したとき、気分を高揚させて元気を出し、活動性を高めることによって乗り越えようとするメカニズムを指す。 たとえば、愛する人を亡くすという大きな喪失体験に直面し、打ちのめされているにもかかわらず、通夜や葬式の場で「大丈夫、大丈夫」と妙に元気にふるまい、活発に動き回る人がいる。精神医学では「葬式躁病」と呼ばれており、こういう人はその後ドーンと落ち込むことが多い。 あるいは、多額の借金を抱えてにっちもさっちもいかなくなっているにもかかわらず、借金を減らすための現実的な対処はせず、「金くらい何とかなる」と豪語し、毎晩飲み歩いてカードで支払う人も、マニック・ディフェンスに陥っていると考えられる。 気合と根性の必要性をしきりに力説する上司の場合も、実は気分を高揚させて難局を乗り切ろうとする防衛機制が知らず知らずのうちに働いているのではないか。こういう上司は、部下への叱咤激励や自慢話で多弁になることも、電話をかけまくったり取引先に頻繁に行ったりして多動になることもある。このような多弁・多動は、じっとしていられず、過活動の状態になった結果にほかならず、マニック・ディフェンスの可能性が高い。 もっとも、マニック・ディフェンスは、必ずしも病的とはいえない。というのも、これは一種の現実逃避であり、誰でも多かれ少なかれ用いる防衛手段だからだ。困難な事態、とくに大切な対象を失う喪失体験に直面すると、とりあえず目の前の現実から目をそむけながら、自分が受けるダメージをできるだけ和らげようとする。当然、せわしなく動き回ることによって何とかしようとする防衛手段に知らず知らずのうちに頼ってしまうことは誰にでもある。 ただ、マニック・ディフェンスの結果、軽躁状態になっていると、事態は深刻だ。軽躁状態は文字通り軽い躁状態であり、本人も周囲もそれほど困らない。むしろ、本人としては調子がよく、仕事も家事もどんどんはかどるので、本人も周囲も軽躁状態を病的な状態と認識することはまずない。つまり、自分が病気であるという自覚、「病識」を持ちにくい状態なのだが、その分暴走しやすいともいえる。 つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。
片田 珠美(精神科医)