12月3日から「障害者週間」。障害者雇用の現場から見えた経営の難しさと企業の挑戦
◆博多のライブハウスも購入。昼間はレクリエーションに活用
「コロナ禍に、高校時代の先輩である藤本成史先輩と偶然再会しまして。先輩は2009年に村田仁志さんとチキンナゲッツというアコースティック・ロックユニットを結成し、プロのミュージシャンになっていたんです。 コロナ禍で、医療従事者をはじめとしたエッセンシャルワーカーによって大勢の日常が守られていることを知った先輩が、そんな方々に向けて感謝の気持ちを込めて作った『花束』という曲が代表曲だと聞いたんです。実はその曲、私も介護の仕事をしている中でとても勇気づけられ、好んでよく聴いていた曲だったのです。 また、そのとき、医療的ケア児を姉にもつ妹が書いた作文をもとに『ピピピとワハハ』という曲を製作していたこともあって、『音楽が持つ人々をつなげる力』を目の当たりにしたんです」(川上さん) そんな偶然の再会をした藤本先輩から、「ライブハウスを買わないか」という提案があったという。 「ちょうどコロナ禍に運営が厳しくなっていたそうです。私も、障がい者やその家族がエンターテインメントを楽しめる場所も作りたいと以前から思っていたので、見に行ったその日にもう購入を決めました。 昼間は障がい者の方のレクリエーションに使ったりもできますし、チキンナゲッツのライブを見てもらったりもしています。 将来的には障がいを持っていてもダンスが好きな子にはステージに立ってもらえたらいいなと思っています」(川上さん) 介護業界は人手不足にもかかわらず、働く人たちの収入も低い。川上さんはこの介護業界の給与問題にも切り込む。 「うちの施設では介護士や社会福祉士などの資格を持った人が働いています。私自身が苦労したから、働く人に対しても給料を上げたい。そう思って、従業員には業界平均をはるかに上回る給与を支給しています。『介護職は給料が安い』というイメージを打破したいですね」(川上さん) 一般企業に求められる障害者の法廷雇用率が引き上げられていくなか、一般企業で働けない障がいを持った人が働くことを支援するのが「就労継続支援」。しかし、生産性を確保できず経営を圧迫するA型事業所が増加し、経営の難しさもある。一方、B型は支払う工賃は安いが、その分、障がいを持った利用者の確保が難しいという問題がある。 経営のかじ取りが難しい就労継続支援のなかで、船やライブハウスまで自ら購入。障がいを持った人がエンタメを楽しむことができ、自分らしく生きられることを支援し、奮闘する川上さん。さらに、給与水準が低い介護・福祉施設で働く職員に、業界平均よりも高い給与を支払っている。障がいを持っている人も健常者も、誰もが自分らしく生きられる社会の実現に向けて、福岡から変わるかもしれない。 <取材・文/日刊SPA!編集部 写真/Adobe Stock>
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