アサド政権崩壊で中東のパワーバランス激変か シリア難民480万人の進路は?
ロシアやイランが支援してきたアサド政権の崩壊を受け、シリアでは反体制派への権力移行が始まった。大国や周辺国を巻き込む形で、中東のパワーバランスが激変しそうだ。 【画像】シリアのGDP 10年で7分の1以下に…国民9割が貧困ライン以下で生活
■「シーア派の弧」に打撃 どう出るイラン
アサド政権を支えてきた地域大国イランは、アサド政権崩壊で大きな影響を受けそうだ。 中東メディア・アルジャジーラによると、HTS=シャーム解放機構の指導者ジャウラニ氏は「もはやシリアはイランの影響を受けるような政府ではないと考えている」という。 イスラム教は、世界のイスラム教徒人口のおよそ8割を占めるスンニ派と、1割強のシーア派の2大宗派が対立している。 サウジアラビアなどで多数派を占めるスンニ派は、預言者ムハンマドの残した言葉や慣習を重視。一方、イランなどで信仰されるシーア派は、ムハンマドのいとこのアリの子孫を正当な後継者と位置付けていて、スンニ派の大国サウジアラビアとシーア派の大国イランが長年対立していた。 アサド政権の崩壊で、この中東の勢力図に変化が起き、イランの「シーア派の弧」が崩れる可能性があるという。 「シーア派の弧」と呼ばれるのが、イランを中心にイラク、シリアを経てレバノンにつながる三日月型のネットワーク。アサド政権崩壊でシリアが脱落することで、レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」に対するイランの武器や弾薬支援が途絶える可能性があるという。 BBCは「アサド家による50年にわたるシリア統治の終焉(しゅうえん)は、この地域の勢力バランスを再構築するだろう」と報じている。 今後のイランが取るであろう戦略について、アメリカのシンクタンク・大西洋評議会のシトリノウィッツ氏は「イランはイスラエルとアメリカを自国で抑止する新たな方針を見つけ出さなければならない。核戦略についても再検討するだろう」と述べている。
■9割が貧困ライン以下で生活 帰還阻む国内経済
シリアでは2011年の内戦勃発以来、多くの人々が難民として国外で不安定な生活を続けている。 UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によると、先月時点でおよそ480万人がシリアから国外へ避難していて、トルコは最多のおよそ294万人を受け入れ。また、ドイツの国際放送局ドイチェ・ヴェレによると、ドイツも7月時点で90万人以上を受け入れたという。 こうしたシリア難民は、アサド政権崩壊でどうなるのか? HTSのリーダー・ジャウラニ氏はCNNのインタビューで、アサド政権から解放した地域に難民・避難民を帰還させる考えを示した。しかし、難民の帰還は簡単には進まない可能性もある。 世界銀行によると、シリアのGDP(国内総生産)は2011年にはおよそ675億米ドル、現在のレートでおよそ10兆円だったが、2021年にはおよそ89億米ドル、およそ1.3兆円に。10年で7分の1以下になった。 また、WFP(国連世界食糧計画)によると、シリア国民の9割が一日あたり2.15米ドル(およそ320円)の貧困ライン以下で生活していて、人口の4分の3にあたる1670万人が人道支援を必要としているという。 さらに、シリアの失業率は2023年時点の推定で13.54%。15歳から24歳の若者に限れば33.5%にも上る。 アメリカメディア・GZEROは、大規模な難民帰還の実現可能性について「シリア経済の安定、将来の政府の形、復興努力にかかっている。HTSが主導する政権は、帰還を望む難民にとって魅力的ではないかもしれない」と伝えている。 (「大下容子ワイド!スクランブル」2024年12月10日放送分より)
テレビ朝日