さくらももこの創作と感性に迫る展覧会が東京に!
さくらももこの創作と感性に迫る展覧会が東京に!
全国巡回中の展覧会『さくらももこ展』がついに東京にやって来ます。まんが家、エッセイスト、作詞家、脚本家としてさまざまに活躍した稀代の創作者の人生に迫る貴重な機会。会場に足を運ぶ前に一度振り返っておきましょう。さくらももこが、なぜ唯一無二の存在なのか。マンガ研究を手がける竹内美帆さんに、作家と作品の魅力を語ってもらいます。
文・竹内美帆
物心つく頃には、すでに身近な存在だった『ちびまる子ちゃん』。小学生だった私たちの間では一種の「教科書」であり、「共通言語」であった。 遠足のおやつの買い方や、擦り傷を作った時のお風呂の入り方などのライフハック的な情報や、朝礼でおなかが痛くなった時の悲惨さや、母親が買ってきた毛糸のパンツの処遇など、共感できるエピソードが満載で、単行本がボロボロになるほど何度も読み返した。 幼心にさくらももこの作品に惹かれたのは、「小学生あるある」的なエピソードの背景にある、鋭い「つっこみ」力ではなかったか。一見ほのぼのとした作風と、自虐も含めた客観性を持ったシニカルな視点が同居している点が、ユニークで唯一無二な魅力を生み出していたのだ。 マンガ研究の立場から、さくらももこの仕事を振り返り重要だと思われる点は、まず作者自身がマンガに登場し、自分の体験を描く「エッセイマンガ」というジャンルを一般層へと浸透させたことだ。 1990年代に華やかな絵柄が主流であった少女マンガ誌において、シンプルで単純化された描線やコマ割り、点のような目などの素朴ともいえる表現を用いたエッセイマンガとして『ちびまる子ちゃん』を世に送り出した。近年はSNS等において自分の体験談や生活をマンガで描く投稿者も増えているが、そんな状況とさくらももこの活動は地続きだといえる。
もう一つは、その表現の幅広さだ。 マンガだけでなく、ミリオンセラーを記録した『もものかんづめ』『さるのこしかけ』『たいのおかしら』(いずれも集英社)などのエッセイや、「おどるポンポコリン」「走れ正直者」などヒット曲の作詞、絵本の翻訳、果てはラジオパーソナリティーも務めるなど、多岐にわたる才能を発揮した。 さらに、1枚絵のイラストや書籍の装丁などからもうかがえるように、デザイナーとしても目を見張るセンスが感じられる。こうした多方面での活躍は、後の多くのアーティストに影響を与えた。 彼女の作品から伝わってくることは、自分軸でものを捉え、表現することの楽しさだ。読んだ人にとっても、たまに失敗がある平凡な日常のなかで、自分が「好き」なものを大切にして生きていきたいと思わせてくれる。それが、現在でもさくらももこ作品が愛され続ける理由の一つといえるだろう。