歴史問題を葬った尹大統領、「国連軍司令部後方基地」に安保を全賭けか
クォン・ヒョクチョルの見えない安保
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の対日外交について野党は「没歴史的な屈従外交」だと批判する。8月15日、光復節の祝辞で歴史問題に対する言及そのものがなかったことについて、ユ・スンミン元議員(与党「国民の力」所属)は「本当に不思議で奇怪なこと」だと指摘した。尹大統領が光復節記念祝辞で歴史問題に触れなかったことについて、国家安保室のキム・テヒョ第1次長は「重要なのは日本の気持ち」だと述べたが、キム次長が叱責あるいは問責されたという話は聞こえてこない。 尹大統領の傾いた韓日関係に対する認識をめぐり様々な見方が示されているが、「北朝鮮の脅威に対抗するには韓米日安保協力以外に道はない」という強い信念が働いたというという意見もある。元々この信念はキム次長の持論だった。尹錫悦政権で重責を担う前から、キム次長は国家存立がかかった安全保障問題において、韓国の最も緊密なパートナーは米国と日本になるべきであり、韓米日が北朝鮮の脅威に一丸となって対処すれば北朝鮮に対する抑止力が高まるとともに、北朝鮮が誤った判断をする可能性も低下するという主張を展開してきた。そして、韓国が日本と安保協力で信頼を築けば、歴史問題の解決の糸口も見出せると主張した。 ある元外交安保当局者は「尹大統領とキム次長は『大韓民国の存立が北朝鮮の核の嵐の前で灯火のように危険にさらされているため、韓米日の安保協力だけが絶対善、最優先課題であり、歴史問題はその次の問題』だと考えているようだ」と語った。 尹大統領が2022年5月の就任以後急速に米日に傾倒した背景と関連し、大統領室の気流に詳しいある人物は「8月19日付の朝鮮日報のキム・テヒョ次長のインタビューの中で『国連軍司令部の後方基地』に注目する必要がある」と語った。このインタビューでキム次長は「韓米日協力が朝ロ密着を呼び起こしたという批判もある」という質問に「(2023年8の)キャンプデービッド首脳会議と関係なく、朝ロは同じように行動しただろう。米日と協力することは韓国の安全保障を堅固にするという意味だ。米国本土の増員戦力が到達する前に、急迫している状況で韓国を助けられるのは、結局日本にある国連軍後方基地だ。日本の積極的な協力が非常に重要だ」と答えた。 キム次長のインタビューに注目した人物は、「尹大統領が国連軍後方基地の重要性に注目したあまり、歴史問題はさておき、韓米日安保協力に全てをかけているようだ」と語った。彼はこのような判断の根拠として、昨年6月以降相次いだ尹大統領の国連軍司令部に関連する発言を挙げた。 「反国家勢力は国連軍司令部を解体する終戦宣言を唱えてきた」(2023年6月28日、韓国自由総連盟創立記念式) 「国連軍司令部は朝鮮半島有事の際、戦争遂行に欠かせない国連軍司令部の後方基地7カ所を自動的に確保するプラットフォーム」(7月27日停戦協定締結記念式典) 「国連軍司令部は韓国を防衛する強力な力であり、反国家勢力は国連軍司令部の解体を主張してきた」(8月10日、国連軍司令部主要職位者招請懇談会) 「日本が国連軍司令部に提供する7カ所の後方基地の役割は、北朝鮮の南侵を遮断する最大の抑止要因だ。北朝鮮が南侵してきた場合、国連軍司令部の自動的かつ即時の介入と報復が行われるようになっており、日本の国連軍後方基地にはそれに必要な国連軍の陸海空戦力が十分に備蓄されている」(8月15日、光復節記念式典) 「国連軍司令部は大韓民国を防衛する強力な力の源泉」(11月14日、韓国・国連軍司令部国防相会議への祝電) 歴代大統領のうち、このように国連軍司令部を集中的に言及した前例は見当たらない。国連軍司令部の2大任務は、平時に朝鮮半島停戦協定を管理するとともに、有事の際には戦力を提供することだ。国連軍後方基地は、戦力を提供する任務において重要な役割を果たす。 検事時代、外交安保に対する識見が深くなかった尹大統領が、就任後に強大な戦力を備えた国連軍後方基地について聞いて「これだ!」と叫んだのかもしれないという人もいる。将官の中でも「もし国連軍後方基地についてきちんと理解していなければ、韓国防衛における国連軍司令部の重要性を痛感できなかったかもしれない」と語る人がいるほどだ。 89の在日米軍基地のうち、指定された7カ所の国連軍後方基地は、日本本土に4カ所(横田空軍基地、座間陸軍基地、横須賀海軍基地、佐世保海軍基地)、沖縄に3カ所(嘉手納空軍基地、普天間海兵航空基地、ホワイトビーチ海軍基地)がある。後方基地は、朝鮮半島有事の際、米本土の増員兵力の展開基地であり、在日米軍の朝鮮半島出動基地、国連軍司令部の戦力提供国の軍隊と装備物資が展開して再編成する兵站基地であるとともに、前方展開の拠点となる。2007年当時、バーウェル・ベル国連軍司令官は「日本国内の国連軍司令部後方基地の使用が不可能な場合、韓国が必要とする米国または多国籍軍の朝鮮半島展開は不可能だ」と述べた。 尹大統領が国連軍後方基地を安保不安を解決する「万能キー」として一歩遅れて認識した可能性がある。しかし、国連軍後方基地は、日本の自衛隊の朝鮮半島進出へのルートになる可能性があり、韓国にとって「両刃の剣」になりかねない。米国の立場で韓米同盟と米日同盟の有機的なつながりはインド太平洋戦略の実現に欠かせないものであり、そのためには韓米日安保協力が重要だ。元国防秘書官のイム・ギフン国防大学総長は最近発表した論文で、「国連軍司令部の後方基地は韓米同盟と米日同盟を繋げる実体的な輪」だとし、「朝鮮半島有事の際、戦力提供国の部隊と装備を円滑に展開するためには、韓米日3カ国間の軍需支援と相互協力が必須であり、国連軍後方基地が韓米日協力をつなげるもの」だと主張した。 朝鮮半島有事の際、米本土から増員される米軍は、日本の国連軍後方基地を中継基地として使用する。この過程で道路、港湾空港などの施設と弾薬、給油、整備のような軍需支援を受けなければ、朝鮮半島に兵力と装備を送ることができない。これは日本の協力なしには不可能だ。日本の自衛隊は、朝鮮半島に出動する米軍の後方支援と警戒監視、油類などの軍需支援、朝鮮半島近くの海の機雷を除去する掃海活動を担当するものと予想される。自衛隊が朝鮮半島に出動する米海軍を護送したり、軍需物資を積んでついてくることになれば、自衛隊の朝鮮半島進入につながる可能性が高い。 自衛隊の朝鮮半島進入問題は、2015年4月に米国と日本が新たな米日防衛協力のための指針(ガイドライン)に合意した当時も韓国で物議を醸しており、「韓国政府の事前同意なしには自衛隊が朝鮮半島に入ることはできない」(第三国の主権の十分な尊重)で片づけられた。現在、自衛隊の朝鮮半島進入は「絶対不可」ではなく、韓国政府が同意すれば可能な状況だ。国連軍後方基地、在日米軍、日本が相互に連携している中で、「韓米日安保協力以外に道はない」と確信する尹大統領は朝鮮半島有事の際にどのような判断を下すだろうか。 ▽引用資料 「国連軍司令部の再活性化要因と戦略的価値」(イム・ギフン:国防大学) 「在日米軍と国連軍司令部後方基地の戦略的価値の考察」(パク・チョングン、パン・ジュニョン:韓日軍事文化学会) クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )