物理学の大問題に関係している可能性がある「重要な法則」、「熱力学第二法則」とは何なのか?
物理に挫折したあなたに――。 読み物形式で、納得! 感動! 興奮! あきらめるのはまだ早い。 大好評につき5刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。 【写真】なぜ「マクスウェルの悪魔」は実現不可能なのか? 本記事では熱力学編から、熱力学第二法則ついてくわしくみていきます。 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。
熱力学第二法則
エネルギー保存則の拡張版である「熱力学第一法則」とよく混同されるのだが、「第一法則」と「第二法則」は全然別の法則である。 熱力学第二法則は「低温から高温に(自発的に)熱が移動してはならない」というものだ。「自発的に」というのは、外から余分なエネルギー(仕事)を加えなくても勝手に移動するという意味である。外から仕事を加えることにより低温から高温に熱が移動するのは構わない。 なぜ、自発的に低温から高温に熱が移動してはいけないのか? もし、そんなことが起きたら、低温側の温度はどんどん下がり、高温側の温度はどんどん上がってしまう。そうなれば、熱力学第一法則の限界まで、つまり低温側のエネルギーが汲み出されて全部高温側に移動するまで熱の移動は止まらないだろう。 それが起きたら何がいけないのか。それは世界が不安定になってしまうからだ。たとえば、コップの中の水を考えよう。何かの拍子に、コップの中の水に少しだけ温度差が生じたとしよう。 その場合、低温側から高温側に熱が移動し始めたら、熱の移動は止まらずに凍った部分と沸騰した部分に分かれるだろう。もし同じようなことが、私たちの体内で起きたらどうなるのか。一定の体温が維持できず、体の一部が凍ると同時に別のところは沸騰してしまう。これでは生命は存在できないだろう。 もっとも、「低温側から高温側に自発的に熱が移動する」という現象が起きると「世界が安定的に存在できない」ということは、「この現象がある特定の物質で起きる」とか、「ある特定の温度差だけで起きる」ということを必ずしも禁じない。熱力学第二法則に反する事象が、限られた状況で起きるだけなら世界が崩壊したりはしないからだ。 実のところ、「低温から高温に自発的に熱が移動することはありえない」というのは経験則でしかない。人類が知る限り、「これを破るような現象は観測されていない」ということだ。それでは絶対ないとは言えないのでは、と思うかもしれないが、それを言ったらほとんどの物理法則は経験則でしかない。 熱力学第一法則であるエネルギー保存則だって、あくまで経験則であり、ある日、特定の状況でそれが破れていることがわかっても、特に問題は起きない。同じように熱力学第二法則も、人類が知る限り一度も破れていないだけの、しかし、おそらくは絶対に破れないだろうと信じられているだけの宇宙の法則にすぎないのである。