ある「職業」の存在が”鍵”...《不動産のプロ》でも簡単に騙されてしまう「社会的信用」の罠とは
鍵を握る「ある職業」
地道たちは持ち主側から6億円以上の条件の買い取り価格を提示された。147坪で計算すると、一坪あたり408万円とやや値段が高く感じた。だが、それでも十分採算が合うと踏んだ。 当人が話したように、ここまでは不動産業者がふだんおこなっている土地取引と変わらない。地道は単体でマンションを建設するのではなく、もとの紹介者である神津と組み、さらに大手のマンションデベロッパーに声をかけて了解を得て開発計画を立てた。いわば地道がいったん土地を買い、それをデベロッパーに転売する形だ。完成後のマンション販売は、大手マンション業者が担う。そんな計画である。 だが、あにはからんや、神津のところにもたらされた話が、まったくの出鱈目だったのである。地道たちは土地を買ったつもりで6億5000万円もの大金を支払った。だが、その払い込み先である土地の所有者が真っ赤な偽者だった。というより取引そのものが、仕組まれた作り話だったのである。地道たちに話を持ち掛けたのは、吉永精志という元弁護士だった。 富ヶ谷事件は、日頃、マンション用地を目ざとく物色して開発する不動産のプロたちが、コロリと騙された。簡単に騙された理由が、取引における弁護士の登場である。弁護士という社会的信用が、不動産のプロたちの目を曇らせた。地面師事件における法律のプロたちの暗躍を象徴するケースといえる。 『肩書は「大物弁護士事務所のオーナー」...“地面師”が相手を騙すために行う緻密すぎる「ブランディング戦略」』へ続く
森 功(ジャーナリスト)