せっかくの改良したものの前線に反映できなかった【1式重機関銃】
かつて一国の軍事力の規模を示す単位として「小銃〇万挺」という言葉が用いられたように、拳銃、小銃、機関銃といった基本的な小火器を国産で賄えるかどうかが、その国が一流国であるか否かの指標でもあった。ゆえに明治維新以降、欧米列強に「追いつけ追い越せ」を目指していた日本は、これら小火器の完全な国産化に力を注いだのだった。 3年式機関銃の改良・改修型ともいえる92式重機関銃には、前者の弱点だった弱威力の弾薬の威力向上を目的として7.7mm92式普通実包(じっぽう)が採用された。ところが、あとから開発された99式軽機関銃と99式短小銃には、7.7mm92式普通実包と同一寸法ながら、発射薬量を減らした7.7mm99式普通実包が採用された。 この発射薬量の関係で、7.7mm99式普通実包は弾道特性の違いや作動性の点から、元来が7.7mm92式普通実包用に設計された92式重機関銃では使いにくかった。また陸軍は、前線での火力を強化するため重機関銃の運用を大隊から中隊の規模に下げようと考えていたが、92式重機関銃では重すぎて、頻繁に軽快な機動が求められる中隊への追従が厳しかった。 そこで92式重機関銃よりも軽量化したうえで、7.7mm99式普通実包を使用する新しい重機関銃を、92式重機関銃をベースに改良・改修することで生み出し、1式重機関銃として制式化した。銃全体で約20kgもの軽量化がはたされ、構造面でも簡略化がおこなわれた同銃は、確かに92式重機関銃よりも使い勝手がよかった。 しかしすでに太平洋戦争が始まっており、既存の92式重機関銃の生産ラインの稼動を優先せざるを得ず、1式重機関銃の生産数は少なかった。 ところで、連射速度が遅い92式重機関銃に連合軍将兵は“ウッドペッカー(鳥類の「キツツキ」の意)”の蔑称を付け、独特の射撃音が聞こえると、味方の誰かがやられたと恐れたと伝えられる。このような表現をしたのは、日本軍と戦ったアメリカ海兵隊、イギリス、オーストラリアの将兵だったようだ。だが、敵は機関銃をそのために撃つので、連射音が聞こえれば、味方の誰かがやられるのは当たり前のこと。 ヨーロッパ戦域では、ドイツのMG42が92式重機関銃とは逆に連射速度の速さからアメリカやイギリスの将兵に“ヒトラーズ・バズーソー(「ヒトラーの電動ノコギリ」の意)”の蔑称で呼ばれ、やはりこの射撃音が聞こえると、味方の誰かがやられたと恐れられたという。 このように、独特の射撃音を持つ敵の機関銃を「撃たれる側」の将兵が怖がって蔑称で呼ぶのは珍しいことではない。さらにその発射音を「怖がって」蔑称を付けても、その銃が、銃として優秀か否かは別問題である。 たとえばアメリカは、MG42を優秀な機関銃と認めてコピー生産を計画。T-24の名称で試作までおこなっているが、92式重機関銃をコピーしようなどとは考えもしなかった。 同じ目的に用いる道具に「A型」、「B型」、「C型」のようにいくつかの種類があったと仮定して、すべての型を実際に使ったことのある者は、どれがもっとも優れているか(使い勝手がよいか)を知っている。だがこのうちのどれか1種類しか使ったことのない者にとっては、自分が使ったことのあるその1種類が、最良だと思い込むしかない。 将兵は、敵に撃たれる以上は何に撃たれても「泣き言」をいう。重要なのは「自分たちに泣き言をいわせた兵器」の価値を、正確に評価できているか否かではないだろうか。
白石 光