日高屋、王将、バーミヤン、ぎょうざの満洲…「格安中華チェーン」2023年全勢力図
中華料理店の厨房に、ドラム式洗濯機のようなマシンが――。 JR五反田駅から徒歩5分ほどの場所に、その店はある。「大阪王将 西五反田店」は、台湾の屋台をイメージしたような内装で、34席と比較的小規模。各テーブルにタッチパネルが設置されている点は、他の大阪王将の店舗と変わりない。しかし、調理場の奥にある3台の機械が異彩を放っていた。記者が目を凝らして見ていると、店員が野菜や調味料を入れ、タッチパネルを操作。機械はグルグルと回りだし、しばらくすると中から炒め物が湯気を上げながら現れた。 【よし!今日はココに決めた!】これをみればすぐわかる 格安中華チェーン戦争「勢力図」 今年の10月1日に導入された、炒め調理専用のロボット「I-Robo」だ。看板商品の「じぶん盛り野菜炒め」(690円)は味付け、野菜の追加、肉の種類や量を卓上のタッチパネルで選択でき、自分好みの野菜炒めを「I-Robo」の調理で楽しめる。 「もやしやキャベツ、人参などの野菜は火が通っているのですが、シャキシャキ。火を通しすぎたようなぐにゃっとした嫌な食感はない。ベテラン職人の作るものと遜色ありません。このロボットを導入している店舗は西五反田店だけですが、今後は料理のクオリティを維持しつつ、オートメーション化を進める狙いがあるのでしょう。長崎ちゃんぽん専門店の『リンガーハット』はこの取り組みに成功しており、どこでも同じ味が出せます」(フードジャーナリストの長浜淳之介氏) 「I-Robo」は主力商品の「レバニラ炒め」のほか全メニュー約60種のうち「五目炒飯」、「チンジャオロース」など20種類の料理を調理可能だという。 「原材料費が高騰し、外食産業全体が大幅な値上げを進めている今、格安中華チェーンは数少ない庶民の味方です。一方で、業界全体の慢性的な問題は人手不足。調理ロボ導入や店舗のDX化などを活用して省人化を進めるか、従業員の待遇を改善して人材確保に動くか。どちらも格安で売る事業者には重い決断で、各社は慎重になっている。また、主要な需要である忙しいサラリーマンのランチや、学生たちのガッツリメシ以外に需要を拡大できるかも、格安中華チェーンが今後生き残れるかを左右するでしょう」(経済ジャーナリストの松崎隆司氏) そんな業界の課題にいち早く気づき、″ちょい飲み″需要に応えて勢力を拡大しているのが「日高屋」だ。 「フードに比べてお酒は利益率が高い。そこで、コロナ禍が収まってから日高屋は看板に『ちょい飲み』のフレーズを入れました。チェーンの居酒屋も安いですが、お通し代がかかりますからね。1000円あればビールに餃子、炒め物などを合わせられるのは貴重です。『野菜たっぷりタンメン』などガッツリでないメニューや、『450円朝定食』など朝を狙った商品も展開し、女性や高齢者からも人気を得ています」(株式アナリストの鈴木一之氏) 日高屋は’08年時点で約200店舗だったが、現在は約400店舗に成長。今後も勢力拡大が予想されている。 「実は日高屋は新店舗を、マクドナルドのすぐそばを狙って出すようです。マックは出店に際して、駅の乗降客数や人流、家賃相場を勘案し、採算がとれるかどうかのリサーチを入念にやっていますからね。格安商品の事業者としては賢い戦略です」(外食産業業界紙記者) ◆セオリーの逆を行く王者 日高屋とは対照的に、かつて破竹の勢いで店舗数を増やしていた「幸楽苑」は、新たな戦略を生み出せないまま赤字にあえいでいる。 「もともとロードサイドで大量に展開していたため、顧客は車で来店することが多く″ちょい飲み″は期待できない。創業者である新井田傳(にいたつたえ)氏(79)の息子・昇氏が社長に就任してからの新規事業は、失敗も多い。バレンタインデーに『チョコレートらーめん』を販売したり、話題の鳥羽周作シェフと『ビーガン餃子』(ともに終売)を開発したりしたが、どちらも不評。『いきなり!ステーキ』や『焼肉ライク』とフランチャイズ契約を結んで採算の取れていない店舗を置き換えていましたが、長期的に見ればそれも悪手です。さらには、日高屋らこれまで都市部で勢力を拡大していた事業者が、ここ5年ほどで幸楽苑の縄張りであるロードサイドに進出し始めたため、大ピンチが続いています。再起を図るべく、創業者の傳氏が今年から再登板。その手腕が注目されています」(前出・長浜氏) 「すかいらーく」が運営する「バーミヤン」も酒が売れないロードサイド店舗が多く苦戦中だが、グループのノウハウを活かした生存戦略をとっている。 「すかいらーく名物の配膳ロボットで人件費の節約に成功。立地の悪い店は、系列の点心食べ放題店『桃菜』に衣替えし、客単価アップを狙っています」(同前) 人材確保と育成、そして新規事業の成功――。シビアな条件をクリアしなければ生き残れない格安中華チェーン業界で、約700店舗を展開する王者「餃子の王将」は、時代に逆行するような戦略で圧倒的なトップに君臨している。 「餃子の王将は調理ロボを使わず、セントラルキッチンにもあまり頼らない。いわば省人化の逆張りをしているんです。店で人が作ることが売りで、看板商品の『餃子』も店内で料理人が焼き上げている。各店舗の裁量でオリジナルメニューも開発できる。『本部が管理し各店舗の画一化を図る』というチェーン店のセオリーと真逆。この大胆な取り組みを可能にしているのが、圧倒的な人材育成力。料理人を育成するための『王将調理道場』、店舗のマネジメントを学ぶ『王将大学』やコンプライアンス研修など、充実した制度でサービスの質を維持しています」(前出・松崎氏) 大阪王将や餃子の王将など、餃子を売りにする事業者は、テイクアウト需要が追い風となり、コロナ禍や物価高騰の中でも安定感を見せた。100店舗を展開する「ぎょうざの満洲」もその一つだ。 「店内に冷蔵・冷凍餃子が用意されていて、持ち帰り需要にも対応している。餃子以外の丼ものやラーメンのメニューも豊富で、これから伸び盛りの企業でしょう」(前出・長浜氏) 省人化への投資か、人への投資か、利益率向上のためのアイディアか。餃子の王将を頂点とする格安中華チェーン戦争の火力は、どんどん高くなっている。 『FRIDAY』2023年12月8・15日号より
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