全国交通系ICカード、熊本県の5社が廃止…路線バスや熊本電鉄「12億円」システム更新費の捻出困難
熊本県で路線バスや熊本電鉄を運行する事業者5社は16日、運賃の支払い方法について、Suica(スイカ)など全国交通系ICカードでの決済を廃止した。システム更新費用の捻出が難しくなったためで、5社によると廃止は全国初。来年3月から、クレジットカードのタッチ決済に対応する新システムを導入するが、利用者からは困惑の声が上がっている。(有馬友則) 【写真】JR九州「QRコード」で乗り降りOK
利用者は困惑
16日午前、観光客らが行き交う熊本市西区のJR熊本駅。駅前のバス停には、全国交通系ICカードの利用が15日で終了するという内容のチラシが貼られていた。
親族に会うために熊本を訪れたという福岡市中央区の主婦(56)は「買い物も決済アプリで、現金はほとんど持ち歩かない。小銭を用意する手間が増えて不便だ」と不満そうだった。
全国交通系ICカードは、スイカなど全国の公共交通機関300社以上で相互利用できる10種類のカードを指し、5社は2016年3月に導入。昨年度の利用者は約565万人で、全体の約4分の1に及んだ。
5社は、コロナ禍以降の利用者減に加え、燃料費の高騰などで経営環境が悪化。23年度は計36億円の赤字を計上した。システム導入時は国や県の補助を充てられたが、今回の更新では対象外となったこともあり、システム更新費計約12億1000万円の捻出は困難だと判断した。
5社の一つ九州産交バスの社長で、県バス協会の岩崎司晃会長は記者会見で、「大変な不便をおかけするが、利用者が混乱しないように周知に努めたい」と訴えた。
事前チャージ不要
新システムとなるクレジットカードのタッチ決済は、全国交通系ICカードで必要な更新費の半額程度となる約6億7000万円の導入費で済む。また、国や県の補助が全て認められれば、事業者負担は2億円程度にとどまるという。さらに、全国交通系ICカードでできなかった運賃の割引サービスも可能。事前チャージも不要で、各社は「乗客の利便性が向上する」とPRする。新システムの導入までは、現金か県内でのみ使える地域限定型のICカード「くまモンのICカード」で対応する。