Reiが語る、人生の変革期にギターと真正面から向き合うことの意味
ギターと向き合いながら、人生の意味を見つめ直す
―ギターをフィーチャーした作品ということで、具体的には今回どんなことを意識して作ったんですか? 作る手順が変わったところなんかもありました? Rei:私は作品によってギターで作ったり鍵盤で作ったり打ち込みから作ったりと作曲の手法を毎回変えるようにしているんですけど、今回は統一して全てギターで作ろうとか、ルールを設けてそれを基準に進めました。それからギターソロを全曲に入れようということも初めから決めていましたね。あとは、ひとつひとつ奏法を使い分けることを意識した。タッピング、ハーモニクス、フィードバックを入れたりと、ひとつひとつギターの聴きどころを明確に決めて作っていきました。 ―つまり、Reiのギターのシグニチャーはこう!というのをあからさまにバーンと示すよりは、引き出しのいろんなところを開けて見せるというような。 Rei:そうです。ブルーズという音楽を大事にしていることも、クラシック出身だということも、どちらも自分のカラーだと思っていますし。ロック一筋ではなくジャズっぽいものが入っていたりロカビリーっぽいものが入っていたりと、いろんな形でギター表現を示したかった。それもクラシックギター、アコギと、いろいろ駆使しながら。 ―ここでズバリ尋ねると、いまこのタイミングでギターをフィーチャーした作品を作るのは、Reiさんにとってどういう意味があったんでしょうか。もっと自分を知りたくなったというようなことなのか、ギタリストとしての可能性をもっと広げたいというようなことなのか。 Rei:今までの作品のなかで今回は最も私小説感が強いかなって思っているんです。今の自分がどういうことを考えて生きているのか。そのことのリアルをドキュメントするような作品にしたいって思ったときに、それならばギターにとことん向き合って表現するのが一番相応しいんじゃないかと思いました。 ―どういうことを考えて生きているのかのリアルをドキュメントする作品にしたいと思った、そのきっかけが何かあったんですか? Rei:図らずとも今が人生のシーズンにおいて変革期なのかなと思うような出来事が今年いろいろあったので。自分を曝け出すことを恐れずにそれを表現する上で、ギターは最適な楽器だったと思います。 ―いろいろあったというのは、どういうことなのか、聞いてもいいですか? Rei:はい。今回はストックから出してきた曲はひとつもなくて、全部書き下ろしなんですが、初めにできたのが「Heaven」なんです。これを書いたのは……今年の3月から親しかった人を続けて4人亡くしまして。 ―4人も?! Rei:そんなことは初めてで。お葬式に行っては、三途の川のほとりでその人たちが羽を広げて飛んでいく姿を呆然と見ていて、自分の人生観のようなものがゼロに戻ってしまったというか、信じてきたものを信じられなくなりました。あまりにあっけなくて。命、夢、音楽、記憶、愛情といった目には見えないものが全て疑わしくなってきた。それまでなんの疑いもなく信じていたことが不思議なくらい。どんな音楽でさえも嫌いになって聴けなくなってしまった。そのとき、じゃあ音楽が完全に嫌いになる前に1枚だけ作品を作ろうと思って、リリースの予定のない8曲入りのアルバムを作ったんですよ。 ―歌詞も書いて? Rei:いえ、それはインストなんですけど、親友に向けて作った作品です。譜面を起こして、アレンジもして、レコーディングではお友達に演奏やミックスをしてもらって、マスタリングもして、リリースしないのにレコードにしました。この世に1枚しかないレコードです。それを作りながら、「あ、私はまだ完全に音楽を嫌いにはなっていないんだ」って思えた。人生の意味が見いだせなくなりながらも、もう一回音楽に対する気持ちを捨てきれずにいる自分を確かめることができて、それで「Heaven」という曲を作ることもできたという感じなんです。ずいぶん遠回りでしたけどね。 ―でもそんなふうにして作った「Heaven」は、決して哀しみに満ちたトーンの曲ではないですよね。 Rei:じめじめした作品にはしたくなかったし、バキバキのポップソングにすることで初めて昇華されるかなって気持ちもあったので。とにかくメソメソした曲は1曲も入れたくないという気持ちで作りました。 ―天国に行くことがどういうことなのか、悲しいことなのか幸福なことなのかもわからないという視点で書かれていますもんね。 Rei:そう。幸せって何かな?みたいな。私は基本的に生命がなくなったら意識もなくなると思っている派で、天国があるとしてもそれはこの世なんじゃないかなって考えなんです。だから曲の後半で「雲から見下ろすCity “Heaven” どこにいてもそこはHeaven」と歌っている。天使になって見下ろしている今世がそもそも天国で、その人の感じ方次第なんだ、そのことに気づいてよ、って言っています。 ―なるほど。それもあって物悲しい曲ではなく、このようにロックな曲調で歌っている。因みにリリースされないこの世に1枚だけのレコードのインストゥルメンタルの曲群は、どういったトーンだったんですか? Rei:それは現代クラシックとアンビエントを織り交ぜたみたいな感じで。あとキース・ジャレットに『The Melody at Night, With You』というピアノ・アルバムがあって、それは彼が精神的病にかかってピアノの蓋を開くことさえできなくなったときに支えてくれた奥様のために弾いて作った作品なんですけど、そういうイメージでした。 ―いつか聴いてみたいですけどね。では、今作の音楽性に関して特にこだわったのはどういうところですか? Rei:大きな意味でブルーズは意識しました。自分はやっぱりブルーズをやっているミュージシャンだというふうに思っていて。ポップミュージックだったりジャズミュージックだったりルーツミュージックだったりといろいろフュージョンされてはいるけど、精神的にはブルーズをやっている。それはつまり、孤独に寄り添う音楽、人のBLUEに寄り添う音楽を作りたいという気持ちがあるということなんですけど。そのことをもう一度自覚しながら作っていたところがありました。 ―人のBLUEに寄り添う音楽。「HEY BLUE with Cory Wong」がまさしくそういう曲で。 Rei:そうですね。 ―その「HEY BLUE」。アルバム『QUILT』で2曲コラボレーションして、去年のフジロックを始めライブでも度々共演しているコリー・ウォンをここでもフィーチャーしていますが、彼のことはどんなギタリストだと捉えていますか? Rei:すごくフレンドリーでダウン・トゥ・アースなんですけど、その一方でカリスマティックなところがあって。 ―ニコニコしながら、とんでもないプレイをしますもんね。 Rei:本当にそうなんですよ。やっぱりリズムギターの名手としてこの世界で一目置かれるって、すごいことだと思うんです。さっきのお話じゃないけど、シングルノートでブリブリ弾くギタリストのほうが、どちらかというとギターヒーローとして印象に残りやすいじゃないですか。でもリズムギターであれだけの存在感を出せるというのは並大抵なことじゃない。ピート・タウンゼントとかナイル・ロジャース、日本だと山崎まさよしさんのようにリズムギターの名手と言われるギタリストがいて私も好きですけど、コリー・ウォンも本当に貴重な存在だなと。 ―今言ったなかでは、コリー・ウォンはナイル・ロジャースに近いのかもしれませんね。ファンキーなのに泥臭くなくて洗練された音を出す。 Rei:そうだと思います。6月にも彼の豊洲PITでの公演にゲストで出たんですけど、お客さんの熱量がすごいんですよ。東京も大阪もチケットが即完してそれぞれ追加公演もあったんですけど、ギターのインストをやってあれだけ多くの人に求められるんだ、ギター・インストを聴きにくる熱狂的な人がこんなにたくさんいるんだということに希望を感じましたね。