現役時代の苦労の差が監督としての接し方に表れる。江本孟紀が分析する元中日・立浪和義と日ハム・新庄剛志との違い
嫌な気持ちを味わってほしくないという思い
けれども、そこから先は決して順風満帆だったとはいえない。 1995年に当時の監督だった藤田平と衝突し、この年のオフには「野球のセンスがないって見切った」と言って、突然の引退宣言をしてしまう。 この発言はのちに撤回されたが、その後は打撃では思うように成績が上がらず、1997年のオールスターでは、阪神ファンのみならずセ・リーグの応援団から応援をボイコットされる。「新庄帰れ」コールまで起こった。 それにとどまらず、「新庄剛志 そんな成績で出場するな 恥を知れ」と掲げた横断幕までスタンドに現れた。これほどまでに屈辱的な出来事はない。 新庄自身、当時の心境を引退会見のときにこう話している。 「あのときのショックな気持ちはいまだに忘れない。選手は一生懸命にプレーしているので、たとえ不調であっても応援してほしい」 野球を真面目にプレーし、思うような結果が出ていなかっただけである。それにもかかわらず、味方であったはずの阪神ファンからもこのような仕打ちを受けたのだから、プライドはズタズタになったに違いない。 だからであろう、選手に対して厳しいことを言っても、決して腐すような言い方はしない。 新井監督と同様、自身が体験した嫌な思いを、選手には味わってほしくないと考えた末の発言をするあたり、彼の歩んできた過去の苦労の一端がうかがえる気がした。 江本孟紀 現在はプロ野球解説者として活動。ベストセラーとなった『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(ベストセラーズ)、『阪神タイガースぶっちゃけ話』(清談社Publico)をはじめ著書は80冊を超える
江本孟紀