30代半ばの店長が面接官…ネットカフェの深夜勤務に絡んでくる酔っ払いもいると教えられ【65歳アルバイトの現実】
【65歳アルバイトの現実】#32 ネットカフェ編 ◇ ◇ ◇ 「林山さんて宵っ張りですよね。ネットカフェの深夜勤務をやってみたら?」 ストレスが限界! 高級ブティックのドアマンの仕事は「ナチの拷問」だった 知り合いの女性からこんな提案を受けた。考えてみると私はネットカフェを利用したことがない。いわば未知の分野だ。そこでネットカフェの深夜勤務の面接を受けた。 面接官は30代半ばの木島氏(仮名)。この会社に約10年勤め、2年前から店長をしているという。相手の目をあまり見ず、下を向いてボソボソしゃべるタイプだ。 仕事は深夜のフロント&客室清掃係。常時2人で働き、1人がフロント、1人が掃除と作業を分担する。客の注文で火を使わない簡単な食事を出すこともある。 「ネットカフェ勤務の経験はありますか?」 「ないんです。すみません」 「履歴書を拝見すると、これまで営業職をなさっていたようですね。営業マンだったら、この仕事は務まりますよ」 なんだか明るい未来が見えてきた。 ■深夜勤務は自給1440円 夜10時から翌朝6時までの深夜勤務。昼間の時給は1150円だが、深夜は25%増しの1440円。悪くない金額だが「深夜に働くと生活のサイクルが乱れる」と敬遠する人が多いそうで、「いまはどこの飲食店も人手不足。深夜と早朝は特に働き手がいません」。 パソコンを設置した個室は90室あり、昼間、深夜ともに稼働率は60~70%。周辺のイベント会場で音楽フェスなどがあると深夜の数字が100%に跳ね上がる。「今もネットカフェ難民がいるんですか?」と聞くと「いると思います」と曖昧な答え。その表情から、ネットカフェ難民が少なくないことが分かる。 深夜は終電を逃した酔客が多く、個室で嘔吐されることもしばしば。通常は1分前後で掃除が終わるが、床にゲロがこぼれているとモップで拭き掃除をするため3~4分かかる。酔った勢いで「満室だとぉ? 何とかしろよ」と絡んでくる客もいるそうだ。 ちなみに客が払う料金は1時間600円だが、6時間コースだと2000~2500円と割安になる。防音装備を施した部屋もあり、仕事に没頭したい客が利用する。 「では質問です。これまでのビジネス経験で一番つらかったのは何でしたか?」 突然、聞かれて言葉に詰まった。こうした問いかけへの答えを用意していなかったからだ。想定外の質問を受け、とっさに思いついたのがブティック警備員のバイトだ。 「有名ブランド店の警備員です。立ちっぱなしなのでつらかった。まるでナチの拷問でした」 木島氏のやや期待外れという表情を見て「しまった」と思った。彼は私が定年退職まで続けていた営業職での経験談を求めていたのだ。 「では逆にうれしかったことは何ですか?」 これも想定外のため、「お客さんに喜んでもらったことです」と具体性のない回答をしてしまった。そのせいか木島氏の顔色は冴えない。 これでは不合格だろう。ならばと思い「どんな人材を求めてるんですか?」と聞いてみたら、「採用条件を明かしてしまうので、お答えできません。弊社の方針で企業秘密です」。 こんなふうに拒絶されると私は燃える。 あれこれと世間話の要領で突っ込むと、「お客さまに笑顔でこたえられるコミュニケーション能力の高い人」「ニコニコは大切ですが、ヘラヘラはいけません」「忙しいときは短時間で個室にご案内しなきゃならないので、体のキレの良さが求められます」と木島氏はペラペラ。自分の取材能力に自信を深めた面接だった。 (林山翔平)