国立大学法人理学部長会議声明─未来への投資─(全文)
私たちが訴えるのは具体的には以下の3点です。 1. 基礎科学に対する理解と推進への支援をお願いします。 2. 基礎科学の推進のために、国立大学の運営費交付金は欠かせません。運営費交付金のこれ以上の削減は国の未来を危うくします。直ちにやめるべきです。 3. 国立大学の教育・研究の基盤になっている教員の削減は綿々とつながる知の鎖を断ち切り、教育力及び研究力を弱体化させます。教員数維持にご支援をお願いします。 国立大学の基盤経費として措置されている運営費交付金は、独創的な研究のシーズを広く探索するための原資となります。大隅先生の研究で言えば、顕微鏡を使って動く粒を観察する過程に当たります。この時期の研究は、研究者自身にとってもどのように展開するかわかりませんので、競争的資金で支援されることはありません。ましてや産業界からの支援はあり得ません。しかし、大隅先生の研究からもわかるように、この時期の研究が決定的に重要です。この10年間以上にわたり毎年1%ずつ行われてきた運営費交付金の削減が基礎研究の体力を奪っていることは明らかです。このままでは、10年後、20年後に日本からノーベル賞が出なくなることを懸念します。 運営費交付金の削減を受け、教員数はこの10年間で大きく減少しています。さらに、今年度からの第5期科学技術基本計画を受け、多くの国立大学で 大幅な教員削減が提案されています。教員数の大幅な減少は、大学の知の継承と革新を損ないます。国立大学は明治以来、日本の教育・研究のスタンダードとしてそれぞれの地域から我が国の発展に寄与し、我が国の学術を支えてきました。この役割を堅持するためにも、これ以上の教員削減は避けるべきだと考えます。 また、教員の削減は次世代の若手教育者・研究者の育成に対しても深刻な影響を与えます。大幅な教員削減を迫られている大学においては、定年で退職する教員を当分の間補充しないとしています。したがって、第5期科学技術基本計画中は若手教育者・研究者が多くの大学で採用されないという、本計画で謳っている次 世代の若手研究者養成とは全く逆の事態を誘導しかねません。自分のキャリアが確保されないこの状況の中で、次世代を担う若手が人生をかけて研究に参入するとは思えません。 このように、大学だけでなく国にとっても事態はきわめて深刻です。大隅先生や梶田先生の研究で見られた、若手研究者が生き生きと未知のものに挑むためのポストも場所も資金も失われつつあります。未来への投資として、基礎研究の推進とその基になる、運営費交付金と教員ポストの確保を訴えます。 国立大学法人理学部長 北海道大学理学部長 石森浩一郎 弘前大学理工学部長 加藤博雄 東北大学理学部長 早坂忠裕 秋田大学理工学部長 村岡幹夫 山形大学理学部長 玉手英利 茨城大学理学部長 折山剛 筑波大学理学系組織連絡会議議長 木越英夫 埼玉大学理学部長 鈴木健 千葉大学理学研究科長 柳澤章 東京大学理学系研究科長 福田裕穂 東京工業大学理学院長 岡田哲男 お茶の水女子大学理学部長 吉田裕亮 新潟大学理学部長 松尾正之 富山大学理学部長 中村省吾 金沢大学理工研究域長 青木健一 信州大学理学部長 尾関寿美男 静岡大学理学部長 塩尻信義 名古屋大学理学部長 松本邦弘 京都大学理学研究科長 森脇淳 大阪大学理学部長 常深博 神戸大学理学部長 齋藤政彦 奈良女子大学理学部長 林井久樹 島根大学総合理工学部長 廣光一郎 岡山大学理学部長 吉野雄二 広島大学理学部長 楯真一 山口大学理学部長 松野浩嗣 徳島大学理工学部長 河村保彦 愛媛大学理学部長 平野幹 高知大学理学部長 鈴木知彦 九州大学理学研究院長 中田正夫 佐賀大学工学系研究科長 石橋孝治 熊本大学理学部長 市川聡夫 鹿児島大学理学部長 與倉昭治 琉球大学理学部長 山崎秀雄 (東京大学HPより)