国立大学法人理学部長会議声明─未来への投資─(全文)
国立大学法人理学部長会議声明 -未来への投資- 平成28年10月31日 大隅良典先生のノーベル医学・生理学賞の受賞は、昨年の梶田隆章先生のノーベル物理学賞ともども、まさに理学の目指す基礎研究の成果です。大隅先生の受賞は、理学の教育・研究に携わる私たちとして、大変嬉しく、また誇らしく思います。昨年、梶田先生は、先生の研究は何の役に立つかと聞かれて、「知の地平を広げる」と答えられ、今年の大隅先生は、「『役に立つ』という言葉が社会を駄目にしている」と答えられました。これらの言葉は、理学研究の特徴を大変よく表しています。基礎科学は人類の生み出した文化であり、共有・継承すべき知的資産です。また、基礎科学は今すぐ社会の役に立たないかもしれませんが、いずれ役に立つと、私たちは確信しています。しかし、「役に立つ」を前提の研究からは、梶田先生や大隅先生のような誰も踏み込んだことのない新たな発見は決して生まれません。出口が見えないだけに基礎研究は大変難しいのです。研究者の未知のものに対する不断のアプローチが基礎研究の頼りであり、この不断のアプローチを続ける原動力が「好奇心」です。しかし、「役に立つ」研究推進の大合唱が、「好奇心」を持ち続けることを困難にさせ、「好奇心」を基盤とした基礎研究を委縮させています。特に、若い世代に対する影響は甚大で、基礎科学を目指す若手の急激な減少をもたらしています。 国立大学法人理学部長会議は、我が国の基礎科学研究を継承・発展させ、豊かな社会を形成するために必要な『知』の教育と研究を推進することによって社会に貢献することを目指して組織されています。私たちは、「基礎科学こそが、科学・技術の基盤であり、我が国の国力のもとであり、これなくしては、科学・技術の人類への貢献も我が国独自の産業の創出もおぼつかないのではないか」と考え、大隅先生のノーベル賞受賞を機に声明を出すことにしました。私たちは、現在我が国の置かれている困難な財政上の問題も十分理解した上で、未来への投資として基礎科学の推進を訴えます。また、基礎科学推進の基盤として重要な役割を果たしている運営費交付金が継続的に削減されている現状、その結果として教員が削減されている大学現場の危機を訴えます。 人件費削減、若手離れ…緊急的に声明を出した国立大の真意は?