60歳で育児デビューも「できないことばかり」。いとうせいこうが“人生の断捨離”を考える理由
「生まれたばかりの子に守られながら詠んでいる」―60歳で俳句デビューした理由
――育児が始まってから、仕事のスタイルも変わりましたか? いとう: そうですね。僕はもともと家の書斎で仕事するスタイルなんだけど、子どもが泣いたら原稿が書けなくなっちゃうから、長編作品を書くのはあと1~2年は無理だろうなとあきらめています。ただ、長い作品が書けないなと思ったときに「俳句だ!」と思いついたんですよね。それ以来、育児の合間に俳句を詠んで、Twitterに投稿するようになりました。赤ちゃんにミルクをあげている15~20分の時間って、その日あったことを思い出しながら俳句をつくるのにちょうどいいんですよね。 ――これまで俳句を詠もうと思ったことはなかったんですか? いとう: 審査員として俳句を批評的に読むことはあっても、散文を書いている自分が俳句を詠めるわけないと避けてきたんですよね。だから、今は60歳の新人として謙虚に詠んでいるつもりです。子育てしていて自然に詠んでいる俳句だから、レベルとしては正直それほど高くはないとは思うけど。 実は、子どものことを詠んだ句って批判されないんですよ。批判した人が嫌なヤツに見えちゃうから。だから、僕は生まれて何カ月かの小さい子に守られながら俳句を詠んでるんです(笑)。たまにはみんなから「おぉ」って思われるようなものも詠まなきゃって思うんですけど、そんなことより子育てのほうが大変……という状況です。 ――いとうさんは長編小説だけでなく作詞なども手がけていますが、他の創作にも影響が出てきそうですか? いとう: 今は不思議と書く気が起きないんだよね。子どもという他者を見つめていると、わかり得ないことをわかったように書くわけにもいかないなと思ったりして。「これは2回目のスランプが来るのかも」とちょっと困っているんです。前のスランプは16年くらいあったけど、もし今スランプに陥って60歳から16年も経ったらほとんど人生が終わっちゃう(笑)。なので、今は俳句を詠めているということが、自分にとってはすがるようなクリエイティビティなんですよ。