進化する準則型私的整理、千葉県での取り組みも後押し ~石川貴康弁護士、今井丈雄弁護士 単独インタビュー~
―中小企業活性化協議会での活動について
(今井)私が関与した事例を2つ紹介する。1つは石川先生が代理人をされた事案で、資金繰りがもたず、スポンサー候補は存在するが譲渡までたどり着けるか分からない事案があった。電気代等を含めて費用を切り詰め、支払いも延ばしてもらいなんとか譲渡できた。 もう1つは、コロナ禍の影響を受け、金融債務だけではなくリース料も払えるか危うい事案だ。当時の協議会では異例の対応だが、リース料もリスケジュールの対象にした。最終的には弁護士が入って、対顧客の料金体系を見直し、債務整理なしで対応を完了できた。こうした経験から思うのは、債務整理に着手する前にやれることは多いということだ。弁護士が早めに入る、あるいはもっと前に専門家が入って対策を検討すると、立ち直れる可能性が高まる。
―中小企業活性化協議会への期待は高まっている
(石川)協議会案件では、企業を特別清算で処理するなかで代表者の保証債務は経営者保証ガイドラインの単独型を利用することもある。千葉県はこの利用が昨年度(2023年度)と一昨年度、全国で2位だった。所謂再チャレンジ支援と言われるが、今井先生が協議会の統括責任者補佐で入っていた際に掘り起こしてくれた。私もこの案件の調査報告書を作成する件数がかなり増えている。
―過剰債務に苦しむ経営者にアドバイスを
(石川)分野によって然るべき専門家、税理士や中小企業診断士、よろず支援拠点でもいいが、この経営課題だったら、こういう相談先があるよと伴走的な支援で全体を統括するという立場で弁護士に入ってもらうのがいい。道案内ができる人のサポートだ。公的な機関を活用し、コストがかからない方法で専門家につなぐことが出来るアドバイザーの活用が肝だ。各地の商工会議所が経営相談に乗っており、そこで経営指導を仰ぎ、専門家の紹介を受ける形がベストではないか。
―いわゆる「私的整理の法制化」について
(今井)事業再構築小委員会(※3)の議事録を見ると、中堅以上が念頭のようだ。すぐに千葉県や地方の中小企業で使われるわけではなさそうだが、将来的にはわからない。 多数派の意見で決まるとなれば、金融機関は少数派になる形では融資をしたがらないかもしれない。大企業であればメインバンクが助けてくれることもあるが、中小企業はそうとは限らない。急な資金需要が生じても金融機関からの調達が難しくなる可能性もある。長い目で見ると中小企業の資金調達に支障が出ることもあり得ると思うので、制度設計は簡単ではないだろう。 ※3 経済産業省が2024年6月から事業再構築を巡る有識者会議を立ちあげ、私的整理にも多数決により債務整理ができる制度導入が検討されている。 (石川)前提として選択肢は多い方が良いので個人的には反対しない。他方で新しい制度を作る際には立法事実があることが大切だと考えている。私的整理で同意がとれず簡易再生移行した案件があるようだが、強い立法事実があるかは少し気になる。 制度の内容として「一時停止をどうするか」は興味がある。一時停止に拘束力を持たせないと、機能しないので、一時停止の判断には裁判所の関与が不可欠だと思っている。裁判所が判断する時に本来回収でき、平場で回収できる権利を強制的に止めるとするのであれば、相応の理由や材料がないといけないので、それをどう審査して、どのような要件で裁判所が一時停止を出すのかは気になるところだ。 また、(多数決での合意に)拘束されるのであれば、認可の時にも裁判所の関与が不可欠だろう。ただ、手続実施者のような公正中立で、専門的な人が「OKだ」と言うのであれば、比較的緩くは認可が出来るのではないか。 (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年10月16日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)