熊野古道中辺路【後編】近露の里から熊野本宮大社をめざす
音無川沿いの道を下っていくと、右手に赤木越の道が分岐する。ここは直進して船玉(ふなたま)神社から発心門(ほっしんもん)王子へ。発心門王子は、熊野聖域入口の大鳥居が立てられていたところで、参詣者はここでお祓いをしてから鳥居をくぐったという。ここからバスに乗車し、熊野本宮大社に向かうこともできるが、ここでは、歩いて熊野本宮大社をめざす。杉木立の石畳道を抜けると、左に果無(はてなし)山稜が開ける。 水呑(みずのみ)王子、道休禅門の地蔵を過ぎると、やがて眼下に熊野本宮大社旧社地・大斎原(おおゆのはら)を望む伏拝(ふしおがみ)王子に着く。左手の茶畑は朝ドラ「ほんまもん」のロケ地となった場所だ。そばに無料休憩舎の「伏拝茶屋」があるので、ひと休みしていこう。
小辺路(こへち)との合流点、三軒茶屋跡(九鬼ヶ口関所跡)を過ぎると、熊野本宮大社まであとわずか。「ちょっと寄り道展望台」に足を延ばせば、大斎原が眼下に眺められる。 裏鳥居から、うっそうとした杉に囲まれた熊野本宮大社の境内へ。神門をくぐると、檜皮葺(ひわだぶき)の四社殿が神々しい。参拝を終え、参道の石段を下って国道を横断、本宮大社前バス停を通り過ぎ、熊野本宮大社の旧社地、大斎原へ。ここ大斎原は1889(明治22)年の大洪水まで熊野本宮大社があったところで、藤原定家はこの場にたどり着き、「感涙禁じがたし」と日記に書きとめている。大斎原を後にして、本宮大社前バス停に戻る。 本コースはやや長丁場のため、発心門王子からはバスを利用して熊野本宮大社に向かうハイカーも多い。体力や都合に応じて計画を立ててほしい。
------------------------- 児嶋弘幸 1953年和歌山県生まれ。20歳を過ぎた頃、山野の自然に魅了され、仲間と共にハイキングクラブを創立。春・夏・秋・冬のアルプスを経験後、ふるさとの山に傾注する。紀伊半島の山をライフワークとして、熊野古道・自然風景の写真撮影を行っている。 分県登山ガイド『和歌山県の山』『関西百名山地図帳』(山と溪谷社)、『山歩き安全マップ』(JTBパブリッシング)、山と高原地図『高野山・熊野古道』(昭文社)など多数あるほか、雑誌『山と溪谷』への寄稿も多い。2016年、大阪富士フォトサロンにて『悠久の熊野』写真展を開催。 -------------------------
写真・文=児嶋弘幸