「月収2万」の部活動指導員を10年続けた男の志 吹奏楽顧問「生徒と音楽作るうえで大事なこと」
教師になって17年目、「今は蒔いたタネの収穫期」
教員の仕事は忙しい。実際に取材時も、「会議が何個も重なって……」と慌ただしい中、時間を割いてくれた。多忙な中でも、どんな部分にやりがいを見いだしているのだろうか。 「これは年数を重ねないとできない経験ではありますが、中学で見ていた生徒がどんな大人になるかを知れるのはうれしいですね。卒業生が、大人になってから自分の子どもを連れて顔を見せに来てくれたり、中学生の頃を振り返って今だからできる話をしてくれたり」 部活動だけでなく「授業での様子や生活全般も含めて、生徒を見てみたい」という思いで行動してきた結果が、このような形で結実しているのだろう。実際に上髙原氏は、部活動だけでなく授業においても、生徒の自主性を育むような研究や実践※を続けている。 ※2020年度 文部科学省 神奈川県優秀授業実践者 「例えば歌唱の授業では、生徒に対して、強弱の表現について『やったつもり』ではなく、『聞き手に伝わったかどうか』で評価するよ、という話をしています。自分の主観でなくて、相手ならどう受け取るかの客観を、生徒が自主的に考えて行動する場にしたいと考えています。 一方で、取り組みの期間やゴール、行き先について、生徒がより裁量を持ちやすい場が部活動であると考えていますので、部活動指導においてもそうした環境づくりを意識しています」 とはいえ、本業に加えて部活動指導を行う負担は大きい。さらに公立の教育職員の場合、部活動指導等に支払われる報酬は少ないことが指摘されている。苦労に対して対価が見合わないと、感じることはないのだろうか。 「吹奏楽はいろんな楽器のノウハウや関係者とのつながりなど、ある程度わかる状態になるまでに経験で埋まるものが多いので、最初の数年は本当に大変です。 若手はとくに、本業の方でも体育祭の実行委員など、実働が多い仕事をふられやすい。それでいて給与体系は基本的に年功序列の昇給カーブ。そんな中で保護者からの期待など、さまざまなプレッシャーを受けやすいのもまた若手です。 私は今、蒔いたタネの収穫期にいますが、始めて間もない若い先生が苦しい立場に置かれやすいのは間違いありません」 ただし、と付け加える。 「限られた時間の中でも、子どもたちといろんなやりとりをして、ものを生み出したり記憶に残る影響を与えたりするようなやりがいを経験してもらいたいです」 だからこそ、教員をとりまくさまざまな制度や環境の改善が求められているのだろう。 続く後編(部活動の地域移行は誰のための改革?元部活動指導員の吹部顧問が語る現状)では、海老名市の「新たな部活動の在り方検討委員会」委員でもある上髙原氏に、教員の人手不足や働き方改革で進む部活動の地域移行の現状、今後の地域移行で外部指導員と教員が生徒の成長のためにどのように協働できるか、両者にとって望ましい仕組みや制度は何かについて話を聞いていく。教員の兼職兼業など報酬面も含め、多くの教師や指導員が納得できる形を、模索したい。 (企画・文:吉田明日香、写真:すべて編集部撮影)
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