“どちらが譲歩したか”ではない日韓GSOMIA急転維持
●輸出管理問題で日韓は共通の立場
今回の韓国政府によるGSOMIA維持の発表は、日米韓の安全保障面での協力を維持・強化するのに積極的な意義があります。米国はかねてから、日韓GSOMIAの失効は米国の安全保障体制にも悪影響があり、北朝鮮、中国、ロシアを利するだけだと警鐘を鳴らしていました。 また今回の決定は、安全保障面だけでなく日韓関係全体にとっても積極的な意義があります。特に問題なのは日本側の輸出管理強化措置をどうするかです。韓国はこれまで一貫して同措置を非難してきましたが、現在は日本側が「前向きに応じる」よう求めるにとどめています。措置の撤廃を望んでいることに変わりはないでしょうが、それを直ちに要求すると日本側と合意するのは困難なことを認識しているのでしょう。 GSOMIA問題とは異なり、輸出管理強化措置の問題は白黒で決着をつけるような問題ではありません。日本側が韓国側に求めている輸出管理の適正化は、本来は韓国にとっても必要なことです。たとえば北朝鮮へ禁輸物資が流れないよう輸出管理を厳格にすることは、自由貿易を推し進める韓国としても重要です。両国は基本的には共通の立場に立っているのです。 経済産業省の高官が、前述の記者会見で「(日韓の局長級)対話では韓国側の貿易管理体制が改善されているかなどを確認したい」「半導体の原材料など3品目の輸出管理を厳しくした措置や、優遇対象国から韓国を除外した措置の見直しについて、韓国側の適正な運用により、見直しの検討が可能になる。今の時点で優遇対象国に戻すことありきという結論も予断もない」と述べていることは、措置が開始された当時の固い雰囲気とは大違いであり、妥協の可能性があることを示唆しています。 韓国側はGSOMIAを維持する決定により、日韓関係改善のために一歩を踏み出しました。米国の圧力があったにしても、韓国としての努力も見逃せません。韓国の新聞には、韓国側に比べ、日本側の譲歩は少ないという見方があるようですが、どちらの損または得が大きいかという問題ではありません。日本側も一歩前に踏み出しつつあります。 日本と韓国は本来、対立関係にあってはならず、協力して中国、ロシア、北朝鮮との関係を進めていく必要があります。今回の日韓GSOMIAの維持決定は日韓関係改善の第一歩です。両国間には、元徴用工訴訟など困難な問題がまだ残っており、その解決のため日韓双方がさらなる努力を行うことが期待されます。
----------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹