習近平は「総書記」と「国家主席」どちらが正しいのか?...中国政治システムの「本音と建前」
2018年には在任中に「総書記は2期まで」のルールを廃止。中国のトップ習近平は「総書記」なのか「国家主席」なのか──
習近平国家主席は、実は表向きは最高権力者ではなく、建前上、共産党とは別の立法機関が存在するという。 世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平政権がとった「愚かすぎる対応」とは 二重構造とも言える中国の政治システムについて、外務省時代から今まで世界97カ国でさまざまな国の人とビジネスや交流を行ってきた山中俊之氏が解説する『教養としての世界の政党』 (かんき出版)より、一部を抜粋して紹介する(本記事は第2回)。
中国の最高権力機関は共産党ではないという事実
<中国の政治システム1「全人代」> ニュースで報じられる習近平の肩書は「総書記」のこともあれば「国家主席」のこともあります。果たしてどちらが正しいのか──正解は「どちらも正しい」なのです。 国家主席は英語にするとPresidentなのに、「国家主席=最高権力者」ではありません。そこに中国の政治システムの二重構造とも言える本音と建前の複雑さがあります。 「中国の政治システム=共産党のシステム」が実情なのですが、最高権力機関で立法機関は共産党とは別の全国人民代表大会(全人代)となっています。共産党とは別のシステムなので、さらっと押さえておきましょう。 全人代のメンバーを選出するためにまず行われるのが、地方自治体レベルの地方人民代表大会。直接選挙となっており、18歳以上なら誰でも投票できます。候補者は必ずしも共産党員である必要はありませんが、過半数は共産党員です。 全国規模の全人代は、5年に一度の間接選挙。すなわち、直接選挙で市民に選ばれた地方の人民代表が投票するのですが、全国の候補者ともなれば念入りに共産党が吟味した人物に限られています。 こうして選ばれた全人代の構成メンバーは中国の政府関係者、軍人、経営者から学者まで幅広く、3000人近くにもおよびます。毎年3月に共産党や各界代表者が集まる中国人民政治協商会議と同時期に北京にて開催されます。 この時期には全国から集まった代表者で北京のホテルは大混雑するのです。
実際には共産党が絶大な国家権力を掌握している
「全人代は最高権力機関であり、立法機関であり、国家主席を選出し、国家予算や政策を決定する」──こう書くと、「じゃあ、全人代は国会みたいなもの?」と思うかもしれません。 形式上はその通りです。「全人代」が国会のようなもので、ここから選出される「国務院」が行政を担う政府で、国務院を主宰するのが首相です。「国務委員」が首相を補佐するいわば閣僚です。 しかし、中国の政治システムでややこしいのは、国務委員は全人代(国会)の代表というわけではなく、共産党の指導を受けること。共産党が事実上、支配しているのです。 国会たる全人代で自由な討議が行われることはなく、議案を提出することもできません。立法も国家主席の選出も政策決定も軍事戦略も、すべて共産党の意向で決まります。 さらに全人代で選ばれる「国家主席」は、国家元首ですが、空席だったこともあるポスト。事実上の国の最高権力者は、共産党中央委員会の総書記なのです。 「国家元首のポジションが空洞なんてよくない!」と思ったのかどうか、江沢民(1926年~2022年)と習近平は国家主席であり共産党総書記。ついでに言うと中央軍事委員会主席も兼務。つまり「ぜーんぶ私がやるので、ご安心を」とばかりに、絶大な国家権力を掌握していることになります。