習近平は「総書記」と「国家主席」どちらが正しいのか?...中国政治システムの「本音と建前」
政府のポジションより重要な共産党のポジション
「中国の政治家の序列は、何よりも共産党の序列なのだ」 改めて私が思ったのは、2023年7月。女性スキャンダルが報じられた秦剛外相が1カ月ほど公の場に姿を現さず、病気なのか軟禁されたのか、さまざまな噂が飛び交った時のことです。 中国では「外交部部長」と呼ばれる外務大臣といえば、どこの国でも最重要と言えるポジション。行方不明というのは大問題になってもおかしくないはずです。それなのに中国では、王毅前外務大臣が何事もないかのように代行を務めていました。 キャリア外交官だった秦剛は習近平の抜擢で駐米大使を経て外相になりましたが、共産党でのポジションは中央委員止まり。共産党の序列で言うと政治局員ですらない下っ端です。かたや外相を退いてから共産党の政治局局員になった王毅は、断然格上。 中国の政治においては、政府でのポジションより共産党内のタイトルが重要で、「共産党で偉い人=国でも偉い人」となります。 ちなみに外交の世界はカウンターパートが重要で、同じ序列の人間が会わないなら訪問しない、迎えないという暗黙のルールがあります。 たとえば2023年に米国のブリンケン国務長官が訪中した際、政治局員であるカウンターパートの王毅前外相が出迎えました。習近平総書記との会談もあったのは「米国を重視しています」というメッセージです。 ところが同年、日本の林外務大臣の訪中で対面したのは秦剛外相。ポジションは同じ “外務大臣同士” で、形式的にはカウンターパートになりますが実質的には格下、政治局員の王毅には出迎えられなかった──あの時期の中国にとって、日本はそんな存在だったということかもしれません。 二重構造でわかりにくい中国政治のさらにややこしいところは、政治家と官僚の線引きが曖昧な点です。 日本では「選挙で選ばれた政治家」と、「試験を受けて公務員になった官僚」は明らかに別です。たとえば外務省であれば、大臣、副大臣、政務官は政治家で、その外の人たちは公務員と線引きされていますが(たまに民間登用の大臣もいますが)、中国はそこが不明。 秦剛外相は選挙というものを一回も経験しないまま、国務院の公務員から外務大臣になりました。一方、共産党の全人代で選ばれた王毅前外相は、「国務院の外相」の座を退いてからも、依然として共産党政治局の “外交担当” のまま。 彼は「国務院(政府)の外務大臣よりも偉い、共産党政治局の外務担当者」という二重構造になっています。 共産党員でなくても閣僚になった人はいるといいますが、その活躍にはおそらく限界はあります。さらに上の政府高官を目指すなら、中国では共産党員であることが必須でしょう。