76歳になった「ジュリー・沢田研二」は歌謡曲黄金時代の“生ける伝説”、いや極上の“生きた化石”である
■「ジュリーっぽさ」を面白がれるファン 幸い、その世界には彼を理解するファンがいた。コンサートでヒット曲が歌われなくても、政治的な発言が飛び出しても、直前にドタキャンされても、それもまたジュリーっぽいと面白がれる人たちだ。いわば、若気の至りも年寄りの冷や水も許容される空間で生きていられるということ。これほど幸せなスターはなかなかいないし、歌謡曲で育った筆者にとっても、これほど濃密な歌謡曲らしさが保たれた世界がまだあることは幸せというほかない。 しかも、サブスクなどの浸透により、最近の若者は作品の新旧を気にせず、聴くようになってきた。それこそ「生きた化石」のようにして、沢田の濃密な世界が発見されることで、新たなファンも獲得しているようだ。 とはいえ、6月25日の誕生日で76歳となり、衰えは隠せない。今年1月に行われたコンサートでは、熱狂的ファンがブログに「グダグダ」と形容するほど、歌詞忘れや音程外しが目立ったという。 それでも、彼は歌謡曲黄金時代の魅力が缶詰になったような存在であり、音楽性だけでなく、当時の価値観や美学まで体現して楽しませてくれる。「カサブランカ・ダンディ」に倣えば「ジュリー、ジュリー、あんたの時代はよかった」とこちらから歌いたいほどだ。危険なひとりが勝手にしやがる世界を、このまま死ぬまで貫いてほしい。 ●宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など
宝泉薫