“不変の覚悟”で確立した居場所…新天地でも「やり通したい」 躍動で大幅昇給、23歳の矜持
オリックス・吉田輝星、目前のケーキに「あぁ……我慢です!」
そっと渡されたフォークを、ゆっくりと手元に置いた。バースデーソングを口ずさんだ直後、お祝いのケーキに一瞬だけ目線をやる。「僕、今……糖質制限してるんですよね。シーズン中、少し体が大きくなったので。あぁ……我慢です! 忍耐!」。オリックス・吉田輝星投手は、知人の誕生会でも“誘惑”に負けなかった。 【画像】美人妻の中でも…ひと際輝く“元ハム右腕”夫人「か、かわいい」 およそ1時間前、サプライズが好きな吉田は満面の笑みで言った。「花束とケーキ、用意しましょうよ!」。ホイップクリームを口にしないだけで、決してノリが悪いわけではない。「この一口がダメなんです。自分に負けてしまう……。決めたらやり通したいんです」。聞けば、シーズンオフでも朝6時には起きるという。愛車で大阪・舞洲に早朝から向かい、室内のプールで体をほぐす。「自然に目が覚めるんですよね……」。リズムに乗りながら、にこやかに手拍子を続けるも、言葉には熱が帯びていた。 昨オフにトレードで日本ハムからオリックスに移籍。舞洲の球団施設で会見を行った際には「関西のことは本当によくわかってないので、少しずつ教わっていきたいです」と不安そうな表情を浮かべていた。あれから1年。大幅昇給を勝ち取った契約更改交渉を終えると、同じ会見場で堂々と胸を張った。 移籍1年目の今季は救援で50試合に登板。4勝0敗14ホールド、防御率3.32と結果を残した。「本当に、人生が変わったと思っています。オリックスのみんなはすごく優しいし、温度感も少しずつわかってきた。楽しんで生活できていると思います」。目を輝かせる吉田の周りには、いつも仲間がいる。
「リリーフの仕事は、サクッと3人で終わること。よく働いてるな、と思われたらダメ」
今年2月の宮崎春季キャンプ。練習終わりに初めて挨拶した際、きっちり立ち止まって名刺を両手で受け取った。「あ、ありがとうございます。吉田って言います。ピッチャーをやっています。今日からよろしくお願いします!」。印象的だった。名乗らなくても、こちらは“勝手”に知っている。甲子園での躍動を見てきたのだから。それだけに、丁寧な挨拶に胸を打たれた。 開幕1軍切符を掴み、新天地で“居場所”を確立していく日々。本拠地・京セラドームでの登板を終えると、帰路につくタイミングは1番最後なのが“日常”で「まだ居たんですか? すみません、お風呂に入っていたんです。投げ終わりはトレーナーさんにケアもしてもらっているので」と汗を拭う。参考にしているメジャー選手、改良したチェンジアップ、関西での休日、初恋……。数分の会話にも、花が咲く。 5月下旬に1度、出場選手登録を抹消された際には「ちょっとだけ休ませてもらいます。気疲れというか……。考えないといけないことがたくさんあったので」と、真剣な表情で語った。配球面や球種を“整理”して6月上旬に再昇格。その日以来、舞洲で会うことはなかった。 「息抜きって大事だと思うんですよね。結局、何をしていても、ずっと野球のことを考えるじゃないですか。海とか山とか……。そういう自然と触れ合う時間も大切にしています」。試合のない月曜日。滋賀県の“秘境”に向かった際は「すごくリフレッシュできました。こういう1日もプラスになりますよね」と顔をほころばせた。 そうは言っても、根っから“野球少年”なのは変わらない。「リリーフの仕事は、サクッと3人で終わることなんです。『こいつ、よく働いてるな』と思われたらダメ。『あ、今日も抑えてくれたな』くらいの温度感がいい感じだと思うんです。そこは意識していますね。攻撃につながるように。ピンチの場面を抑えられると、感情が前に出てしまう時もありますけど……。打った人が目立つ試合が理想だと思ってます」。 ろうそくの火が消えた頃、グラスを右手で持った。「いいですね、関西も」。飾らない一言が似合う。ゴクリと喉を潤した瞬間、グッと胸元を突き刺した。「でも、どこにいても僕のやることは変わらないですよ。野球が上手くなりたい。相手を抑えたい。その気持ちは変わらないです、一生」。出会って、まだ1年。いつも記憶に残る言葉をくれる。だから、メモ帳は必要ない。目を合わせて話すことができる。
真柴健 / Ken Mashiba