「死ぬんじゃないかと…」2階のベッドまで迫る泥水 比地川が氾濫、濁流が集落襲う 沖縄・国頭村
9日に続き10日も沖縄本島北部を襲った大雨。国頭村では集落に濁流が流れ込み、大宜味村では断水が解消する見通しが立たない。道路の冠水や住宅浸水は広範囲に及び、どうにか身体的被害を免れた住民たちは「沖縄でこんな水害が起きるとは」とぼうぜんとした。 【動画】水没した車・濁流が流れ込んだ集落 沖縄北部を襲った豪雨の爪痕 本島最大級の落差と水量で人気の観光地、国頭村の比地大滝。その下流に位置する比地川の氾濫で、近くの比地集落には濁流が押し寄せた。 午前5時半ごろ。薄暗い区内に防災無線で「比地川が氾濫しています。身の安全を守って避難してください」との大城健治区長の声が響いた。 川から80メートルほど離れた家に住む山川信子さん(70)は、放送を聞き避難準備しようとした直後、家の1階部分の高さ約2メートルのガレージが水没し、2階の居住スペースの玄関先まで浸水しているのに驚いた。 認知症を患う夫が制止を振り切って外の様子を見ようとする。「避難しよう」と手を取っても聞いてくれない夫との移動は難しいと判断し、同居する義妹と泊まりに来ていた孫に、歩いてすぐの2階建て村営住宅に逃げるよう促した。 自身は家の中を静かにのみ込んでいく泥水におびえながら、夫と一緒にベッド上で消防隊員の到着を待った。「消防が来るまでの約1時間、死ぬんじゃないかと不安だった」。隊員が駆け付けた時、水位はベッドの下まで迫っていた。 同じ集落の50代男性は午前5時ごろに起き、スマートフォンの天気アプリを確認すると「北部地域の雨雲レーダーが真っ赤だった」。玄関前は膝の高さまで水がたまり、水圧でガラスが割れるのを恐れ引き戸を開けると、冷たい茶色の水が屋内に流れ込んできた。 「これはまずい」。玄関からの避難を諦め、寝室の窓から街灯の明かりを頼りに自宅のブロック塀に乗り移り、さらに1メートルほど先にあるフェンスに飛び乗って村営住宅の敷地内へ。「切羽詰まったら何でもできるんですよ」と振り返った。 水が引き、国頭村の知花靖村長が集落に入れたのは午前9時前。集落は泥まみれになり、大城区長が「20~30台は水没した」という自家用車の一部が、水圧に押され路上に散らばっていた。住民は疲れた表情を見せながら、ぬれた畳や家財を撤去したり、泥水を洗い流したりする作業に追われた。(北部報道部・松田駿太、社会部・吉田光)