治療に向き合う心を支える~ハンドラーの谷口めぐみさん~【医療チームの一員! ホスピタル・ファシリティドッグ】
◇他職種と連携重ね、求められる場面への介入を
ある日、緊急入院した患者さんへの介入依頼が看護師からあり、すぐに訪問しました。集中治療室に入院したみかちゃん(11)は腫瘍の一部を切除する緊急手術が必要な状態。周りで医師や看護師が準備に追われ、ご両親も医師から手術の説明を聞いているところでした。 タイが会いに行くと、初めは驚いていましたが、すぐにタイが穏やかな犬だと理解し、うれしそうになで始めました。不安そうに見守っていたご両親もタイとみかちゃんの笑顔を見て、少し表情が和らいでいきました。手術室に向かう時も、タイが付き添って応援し続けました。 術後すぐに抗がん剤での治療を開始しましたが、腫瘍が大きくなるスピードが予想よりも速く、呼吸状態が悪化し、緊急で人工呼吸器を装着することになりました。ご両親も突然のことで、気持ちの整理が付かない様子でしたが、懸命な治療と本人の頑張りにより、その後しばらくして抜管(気管に入った管を抜くこと)ができる状態になりました。看護師から「抜管して目を覚ました時に、タイがいたら安心すると思う」と連絡があり、抜管時に合わせて訪問しました。 集中治療室の外に待機していたご両親が「タイくん頼むね」と声を掛けてくれました。お父さんは自分の額をタイの頭に当て、無事を祈る気持ちをタイに託しているようでした。タイが見守る中、みかちゃんは無事、抜管。看護師の「タイくんもずっと応援してくれていたよ」という言葉に、うっすらと目を開け、タイを見つめていました。
◇遊びをリハビリに、子どもの頑張り引き出す
その後の抗がん剤治療では副作用で動けない日々が続きます。ほとんどの時間をベッドで過ごすと、体力、筋力がともに低下してしまうため、作業療法士によるリハビリが開始されましたが、体がだるく、やる気もなかなか起きません。 そこで、作業療法士とアイデアを出し合いながらタイとの遊びを通して必要なリハビリが行えるような介入方法を一緒に考えました。それは、みかちゃんと作業療法士がマグネットタイプのダーツゲームで対決、的にくっついたダーツをタイが回収し、かごに戻すというゲームです。立ち続けること、ダーツを投げること、かごをタイの高さに合わせるためにかがむこと―。全てがみかちゃんにとって大事なリハビリでした。 しかし、みかちゃんはリハビリだとは感じておらず、ゲームをただ楽しんでいるようでした。そして、タイもまた遊ぶことを楽しんでおり、みかちゃんとタイの双方にとって、とても有意義な時間になったと感じました。 このように、他職種と連携しながら、必要な場面にタイが介入することで、子どもたちの頑張りをさらに引き出すことができると考えています。 みかちゃんの治療は無事に終わり、今は外来通院で経過を見ています。ご両親は「タイくんは、入院中の子ども達にはもちろん、親の私たちにとっても本当に心強く、そばにいてくれるだけで大きなパワーをもらいました」と振り返っていました。 みかちゃん一家はその後、ファシリティドッグのチャリティーに参加。先日の通院時にチャリティーTシャツを着用し「通院時のユニフォームです」と報告してくれました。 ファシリティドッグが応援してきた患者さんたちが、今度は応援してくれる側になってくれることは感慨深く、うれしいです。地域の福祉祭りに出店した売り上げを全て寄付してくれた一家もいます。これからも患者さんやご家族に笑顔を届けられるよう、タイと二人三脚でサポートしていきます。(了)
谷口めぐみ(たにぐち・めぐみ) ファシリティドッグ・ハンドラー。認定NPO法人シャイン・オン・キッズ所属、静岡県立こども病院勤務。11年泉佐野泉南医師会看護専門学校卒業、同年日本赤十字社大阪赤十字病院入職、18年同富山赤十字病院へ異動。21年認定NPO法人シャイン・オン・キッズ入職、静岡県立こども病院で活動開始。