綾瀬はるか主演、高純度のロードムービー「ルート29」…やさしくて鋭い現代のおとぎばなし
綾瀬はるか主演で森井勇佑監督が撮った「ルート29」(公開中)は、観客にすばらしい映画体験をさせる。奇妙な出来事や、普通ではない人たちと、たくさん出会っていくロードムービーなのだが、豊かな映像、不思議な出会いを楽しんでいるうちに、心が柔らかくときほぐされて、なんだか泣きたいような気持ちになる。やさしさと鋭さを併せ持つおとぎばなしに触れた時のように。(編集委員 恩田泰子)
2022年の「こちらあみ子」で監督デビューした森井の第2作。ルート29とは、姫路から鳥取まで、山陽と山陰を縦につなぐ国道29号のこと。
この映画は、綾瀬が演じる寡黙な主人公・のり子と、風変わりな女の子ハル(「こちらあみ子」主演の大沢一菜)による、国道29号の旅を描く。
のり子は鳥取在住の清掃員。ハルは姫路で暮らす小学6年生。もともとは互いの存在さえ知らなかった。のり子は、仕事先の精神科病棟で出会ったハルの母親・理映子(市川実日子)の頼みを受けて、彼女のもとにハルを連れて行くことにしたのだ。
清掃会社のワゴン車を盗んで姫路へ行き、ハルをさがし出し、また鳥取へ。すんなり行けば片道2時間半程度のはずなのだが、行く手にはたくさんの不思議が待っていて……。
日常からおとぎばなしの世界へ。この映画は、するりと自然に観客を引き込んでいく。人の動き、カメラの動きがあやなす眼福の映像を冒頭から楽しませながら。
奇妙な出来事がたくさんあるけれど、物語も登場人物もたんたんと進んでいく。ちょっととぼけた、えもいわれぬ愛嬌(あいきょう)はたっぷりあっても、余計な説明や感情表現はない。登場人物の核心に触れることだけを、夾雑物(きょうざつぶつ)をとりはらって純粋に描き出す。日頃は、もっともらしい言葉や理屈の下に覆い隠されてしまっている大切なものを発掘するかのように。
トンネルを抜け、森へ入り、この世の者ともあの世の者ともつかぬ存在と出会いながら、ふたりは母親のもとを目指す。