綾瀬はるか主演、高純度のロードムービー「ルート29」…やさしくて鋭い現代のおとぎばなし
このふたりは、夾雑物だらけの日常の中にうずもれている純粋なものの象徴のような存在でもある。純粋であるがゆえに、そうでないものにフィットできない。変わり者とされて端っこのほうにいる。でも、ふたりが出会い、道の真ん中を歩き出した時、世界の彩度がちょっと上がる。
このふたりの純粋さ、繊細さ、世界を見る目の確かさを信じられなければ、物語は成立しない。でも演じる俳優はふたりとも本当にすばらしい。
ハルを演じる大沢は、飼いならされない自由さ、純粋さを持つ女の子の命の姿を「こちらあみ子」に続いて、鮮烈に、たまらなく魅力的に見せる。
そして、綾瀬。この映画での彼女を見ると、希有(けう)な俳優だと改めて思う。純度の高い人物がこの世には存在するのだと信じさせる資質を、彼女は揺るぎなく保ち続け、役に生かしている。そしてその純粋さは、歳月を経て豊かな陰影をまといだしている。ちょっと、匁(もんめ)の高い絹布が描く光と影のドレープみたいな感じといおうか。
ともあれ、この映画、ひとりではなくふたりの旅ということにも大きな意味を感じる。同じ夢を見る誰かがいることで人は救われる。そして、この映画は、その誰かが、その救いが、この世界には確実に存在するのだという光を見せる。映画という表現の力をもって。
スクリーンに広がる奥深い映像世界、短いけれど心に響く純度の高い言葉。市川、そして伊佐山ひろ子、高良健吾、河井青葉、渡辺美佐子らが演じる忘れがたい登場人物たちとの出会い。Bialystocksによる音楽……。見逃してはならない映画だ。
原作は、2022年に刊行された、中尾太一の詩集「ルート29、解放」。森井は、同作からインスピレーションを受けて、国道29号を1か月近く旅しながら、脚本を書いたという。
◇「ルート29」=2024年/日本/上映時間:120分/製作:東京テアトル、U-NEXT、ホリプロ、ハーベストフィルム、リトルモア/配給:東京テアトル、リトルモア