フジロックで奇跡を起こした「ワタル」が語る、ザ・キラーズとの共演秘話とこの先の人生
ザ・キラーズ譲りのメンタルが生んだ奇跡
―ステージに上がって演奏を始める前、ブランドンとどんな言葉を交わされたんですか。 Wataru:あそこの場面では名前と出身地、あと「For Reasons Unknown」のブリッジのライブアレンジを知ってるか?ということを聞かれました。ライブアレンジは全部知ってるので「YES!」という感じで(笑)。 ―演奏中はどんな気持ちでした? Wataru:思っていたよりは楽に演奏できるなっていう感じがあって。 ―え、すごい! Wataru:それはなぜかというと――今考えると、3つ理由があったのかなと思いまして。1つ目は、あの場にすごい数の人がいたと思うんですけど、スモークが焚かれていて、意外とお客さんの顔が全然見えなかったんですね。奥まで埋まっていることは見えて感動したんですけど、ドラムをやる時は全然気にならなかったです。2つ目の理由は、ドラムセットの配置が、自分が普段やっているものと近くて叩きやすかったことですね。やっぱり海外の方たちなので手のリーチとかが長いだろうし叩きにくいんじゃないかなって事前に想定していたんですけど、実際に座ってみたら思いのほか自分のセッティングと同じで、「もうこれいつものやつじゃん」と思いながらリラックスして叩けました。 ―あの場でリラックスできるWataruさん……強すぎます。 Wataru:あと、これは最後の理由ですけど、やっぱり他のメンバーの方々がプロ中のプロなので合わせやすくて。アイコンタクトとかもすごくくれて。自分の左側にいたサポートキーボードのロビーも、ギターを弾いてるロニーも、ベースを弾いてるブランドンも、めっちゃニコニコしながらこっちを見てくれていたので、超リラックスして演奏できました。 ―自分のドラムに関しては、どんなこだわりがありましたか? ライブバージョンを完コピしながら、自分なりのフィルも混ぜていたんじゃないかという気がしたのですが。 Wataru:そうですね。基本的なドラムのパターンは、他の国で同じように客席から上がった人たちの動画とかロニー自身が演奏している動画を参考にしました。フィルとかは、どれが一番盛り上がりそうかを自分で考えながらやりました。 ―それは、ドラマーとしてすごく手応えがあったんじゃないですか? Wataru:どうなんですかねえ……そこのフィルが失敗したら嫌だなっていう緊張感はあったんですけど、上手くいったのでまあ大丈夫だったかなって感じです(笑)。最初の方はやっぱり身体もほぐれてなくて、緊張もしていたのでちょっと走ったりもして、自分であまり見返したくないですね(笑)。でもお褒めの言葉をいただいて嬉しいなと思います。 ―あ、自分であまり見返したくない感じなんですか? 最高にメモリアルな動画なのに。 Wataru:後半の方は上手く叩けたので、後半の方は見返してます(笑)。最初の方はメンバーのみなさんが合わせてくれたので、本当に感謝しています。 ―演奏が終わったあとは、メンバーとどんな会話をされていたんですか。 Wataru:演奏が終わったあと、ロニーとハグをする直前に、一言一句は覚えていないんですけど「My favorite」みたいな、「めっちゃよかったよ」というニュアンスの褒め言葉をもらえて。個人的にはそれがすごく嬉しかったです。あとは、写真を撮った時に自分がドラムスティックを持ったままだったので、ブランドンに「これ、どうすればいいですか?」って聞いたら持って帰っていいよって言ってくれたので、ありがとうございます、と。そういったやり取りをしました。 ―そんな判断と会話をする冷静さも、ちゃんと保てていらっしゃったんですね。 Wataru:そうですね。やっぱりザ・キラーズが主役のショーでありステージは聖域なので、彼らの邪魔になることは極力したくないという考えがありました。しかもフジの大トリ、6年ぶりの来日というバンドの命運がかかった大舞台でミスは許されない。真剣に演奏して、早めに写真を撮って、早めにはけようと思ってました。 ―自分が叶えたい場面を何度も強く想像して、それを現実にできる力が、Wataruさんにはあるのだろうなと、たった数分ですけどあのステージを見ながら私は思って。看板を作ったことも、そこに電飾をつけたこともそう。チャンスがあるんだったら、掴む確度を上げるために自分にできることは全部やろうとする努力ができる方なんだなと思いました。たくさんのアーティストと仕事をさせてもらう中で、売れるアーティストや自分が思う成功を掴める人って、そういう努力ができる人だと私は思っていて。 Wataru:ありがとうございます。今回は機会が来たので、念入りに準備をしようかなとは思っていました。自分の考え方としては――人がやらなさそうな大胆なことはやりたいし、勝負強くありたいということを普段から思っています。好きなアーティストやスポーツ選手にそういう人が多いので、自分もそういうふうになりたいという気持ちがありますね。ブランドンもグラストンベリー、レディングとか、名だたるフェスで絶対に失敗しない強いメンタルを持っていると思うんです。そこは普段から真似したいなと思っているポイントです。 ―「人がやらない大胆なことをやりたい」「勝負強くありたい」というマインドに憧れるのは、どういった経験からなのだと思いますか? Wataru:高校の時にみんなの前でライブをやって、全然期待されてなかったのに最終的にめっちゃ盛り上がったみたいな、今回と似たような雰囲気の経験が何個かあって。それが原体験かもしれないです。 ―誰も期待してないところで思いっきりやってやると、みんなに感動を与えることができると。 Wataru:そうですね、そういうことはけっこう好きかもしれないです。 ―なぜそういうことが好きなのだと思いますか。それは、なぜWataruさんがドラムを叩くのが好きなのかという話にもつながってくることなのかなと思って。 Wataru:昔から全身全霊で大舞台を盛り上げる生粋のエンターテイナーが好きで、自分もそういうふうになりたいというシンプルな理由かもしれないですね。ザ・キラーズにハマってブランドン・フラワーズというフロントマンが好きになったのは高校生の時なんですけど、もっと前から好きなバンドもいまして。それはクイーンなんですけど。フレディ・マーキュリーも、言わずもがなですよね。クイーンは幼稚園の時からずっと聴いていたので、それが原体験としてあるのだと思います。