【法律相談】子猫を里親に譲渡したけど劣悪な環境で飼育していて唖然… 返却してもらう方法はあるのか?弁護士が解説
ペットが産んだ子供を里親に譲る際には、大事に育てて欲しいと願うのは当たり前のこと。しかし、もしもそうならなかったとき、譲渡したペットを取り戻すことはできるのだろうか? 実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】 うちの猫が子供を産んだので、インターネットで里親を募集。事前にメールや電話で話をし、猫の飼育経験もあり、愛情を持って育ててくれそうだったAさんに譲渡しました。ところが後日、様子を見に行ったら、とても劣悪な環境で飼育していて唖然。「猫を返してほしい」と言いましたが、相手は拒否。猫を返してもらうにはどうしたらいいのでしょうか。 【回答】 そもそも、猫を取り戻す権利があるかが問題です。猫などの動物は、法的には「動産」であり、物として所有権の対象になります。飼い猫は飼い主の所有物であり、産んだ子猫は親猫の産出物として親猫の飼い主がその所有権を取得します。つまり、もともとあなたは子猫の所有者だったので、あなたが「譲渡」と言う通り、子猫の所有権をAさんに移転できます。 その譲渡の効力を発生させた根拠は、あなたとAさんとの間で、無料で動産たる子猫の所有権を渡す約束ができたことによります。これは「贈与契約」です。贈与契約に基づいて渡した物を取り戻すためには、その契約の効力を失わせることが必要です。 Aさんの飼育環境が劣悪とのことですが、生き物である子猫を贈与するに際して、あなたは愛情を持って飼育することを期待したと思います。もし、飼育方法を具体的に特定し、その実施を約束させて贈与したのであれば「負担付贈与」とされ、その実施を怠れば、契約を解除して猫の返還を請求できます。しかし、単に「かわいがってね」という程度では、契約解除の根拠となるような負担とはいえないので取り戻すことはできません。
もっとも、飼育状態が極端に劣悪で、動物愛護管理法で禁止されている虐待といえる場合は別です。例えば、猫を狭いケージに入れて餌をやらないで衰弱させる、殴ってけがをさせるなどの行為です。この場合、警察などに相談や通報をして、虐待行為をやめさせることができます。 また、生き物である猫の飼い方は贈与者にとって重要なことで、譲受人が虐待しないことは当然の前提になっているはずです。虐待まがいの飼育をしていれば、Aさんの飼育方法に錯誤があったことになり、あなたの贈与契約を取り消して取り戻すことができます。 とはいえ、猫の飼育には決まった方法があるわけではありませんし、元来猫は自由な行動をする動物ですから、その猫に対応したAさんなりの考えがあるかもしれません。Aさんが子猫を返してくれない場合は、調停を申し立てて話し合ったらいかがでしょうか。 【プロフィール】 竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。 イラスト/大野文彰 ※女性セブン2024年11月14日号