トイレを我慢する修行も…甲賀忍者最後の伝承者の声と史実を盛り込んだ忍び小説とは? 作者・土橋章宏が語る
『超高速! 参勤交代』や『身代わり忠臣蔵』など、出版した作品の多くが映像化される歴史小説家・土橋章宏。 次なる新作の筋書きとして選んだのは、歴史から忘れ去られてしまった幕末の忍者を描く冒険ストーリー。 甲賀忍者が、長らくの戦なき世を経て失われた忍びの術を取り戻し、幕末の動乱を前に、忍者としての最後の働きを見せる小説『最後の甲賀忍者』について、作者に話を聞いた。
◆大好きな忍者をとうとう小説にした
細谷正充(以下、細谷) 忍者はお好きなのですか? 土橋章宏(以下、土橋) 大好きです。昔から『カムイ外伝』とか『サスケ』とか『仮面の忍者赤影』とか、そこら辺はテレビで見ていましたね。小説は、池波正太郎さんとか、司馬遼太郎さんを読んでいました。山田風太郎さんの「忍法帖」シリーズも読みました。 細谷 では、子供の頃から忍者が? 土橋 もう大好きでした。忍者刀を買ったり、太秦行ったらすぐ忍者コーナーに行くとか。忍者ってマジカルで楽しいなっていうのは、昔からありました。 細谷 そういう忍者好きの土橋さんが、満を持して本書を執筆した。 土橋 好きだったんですけど、本当のところはあまり知らなくて。実際に忍者ってどれぐらいの強さだったんだろうかとか。いろいろ調べてみると、甲賀で一番最後に活躍した忍者の話が出てきた。その前にも、甲賀忍者の最後の伝承者という川上仁一さんの新聞記事がありました。「虚を衝いて戦う」みたいなことをおっしゃっているんですけど、めっちゃいいなと思って。でも“分身”とか“影縫い”はさすがに難しいだろうなとは思った。そういう着想からいろいろ取材を始めたら、「万川集海」(忍術書)を読んで、かなり高密度にやっているなって。 細谷 でも「万川集海」は、結構誇張が多いような(笑)。 土橋 「これは実際に使われていただろうな」というのと、「ちょっと嘘かな(笑)」みたいなのがあった。何か思いつくこと全部書いちゃえみたいな。でも、毒とかは本当にやっていたんです。戦国時代には諸国の大名に雇われていたんで、ちゃんとした強さもあるだろうなと思うんですよ。そこの所をもう一回、検証しつつ書いて、今回の小説になりました。 細谷 忍者ものって、主に伊賀と甲賀で、伊賀の方が目立っているんですよね。そうすると甲賀ってすごくアピールが下手だったのか、あるいは忍者の本分を守っていたのかどっちなんだろうみたいな。 土橋 取材に行ったんですけど、やっぱり甲賀はちょっと地味なんです(笑)。今でも学術書はいっぱい置いてあるけど、なんか真面目だなと思った。伊賀の方に行ったら急にくノ一の可愛い子が出てきて(笑)。伊賀はエンタメに長けているなって思いましたね。 細谷 本の中でも甲賀は修験道の流れを汲んでいるから、くノ一はいないという。 土橋 甲賀忍者に詳しい方に取材で話を聞いても、やっぱり「甲賀にくノ一はいなかった」みたいな話が出てくる。なぜなら修験道から続いているからだっていう話を川上さんから聞きました。それは結構発見だし、面白いなと思って取り入れさせていただいたんです。