遺族の問いに言葉詰まらせた受刑者 思い伝える新制度 池袋暴走5年
5年前の2019年4月19日、東京都豊島区東池袋4丁目の都道で、87歳が運転する車が赤信号の交差点に進入し、自転車の母子が死亡、他に運転手を含め10人が重軽傷を負った。 【写真】3人で笑い合っていた一家 事故を巡っては、起こした当事者と、被害者や遺族との関係性も議論になった。 松永拓也さん(37)は事故の5日後に記者会見した。真菜さんと莉子ちゃんの写真も公表した。事故防止につなげたいという思いからだった。 交通事故の遺族でつくる「あいの会」に入会。遺族としての思いを伝え、事故防止への働き掛けを続ける。その中では、見知らぬ男らから脅迫や中傷を受けることもあった。 前進もあった。今年3月には、刑務所職員を通じ、事故を起こした飯塚幸三受刑者(92)へ自分の思いや意見を伝えた。 使ったのは昨年末に始まった「心情等伝達制度」だ。希望する被害者側から刑務所職員らが心情を聞き取り、書面にまとめて受刑者に読み聞かせる。希望があれば後日、受刑者の反応や発言などを被害者側に書面で伝えるという制度。被害者側への配慮を充実させ、受刑者の更生にも役立てるのが狙いだ。法務省によると2月末時点で全国で心情聞き取りが26件あり、13件が伝達された。 ■「運転しないことが大事」 松永さんは担当職員と2時間ほどやり取りし、事前にまとめた自分の言葉を伝えた。妻と長女のことを忘れないで欲しい▽再発防止に向け、高齢ドライバー問題についての意見や経験を聞かせて欲しい▽近いうちに面会したい――。 4月6日、刑務所から伝達結果が届いた。 ――どうすれば事故を起こさずに済んだか 「運転しないことが大事です」 ――どんな社会なら事故を起こさずに済んだか 「運転しないことです」 職員が松永さんのメッセージを伝える間、受刑者は言葉を詰まらせることもあったという。一つ一つに「はい」と返答し、全てを聞き終えると「申し訳ない」と述べ、面会の申し入れを受ける考えも示したという。 ■「やっと会話できた」 松永さんは被害者参加制度を使い、公判に参加したが、受刑者は「車の制御システムに異常が生じて暴走した」と無罪の主張を続けた。自分の言葉が届いていないのではと感じていた松永さんは、今回返答を受け取り、「やっとちゃんと会話ができた」と感じたという。「事故を起こした経験を社会で共有し、同じような事故を一件でも減らすために協力して欲しい」と話す。(御船紗子) 心情等伝達制度 昨年12月に始まった。希望する被害者側から刑務所職員らが心情を聞き取り、書面にまとめて受刑者に読み聞かせる。希望があれば後日、受刑者の反応や発言などを被害者側に書面で伝える。被害者側への配慮を充実させ、受刑者の更生にも役立てるのが狙いだ。法務省によると2月末時点で全国で心情聞き取りが26件あり、13件が伝達された。
朝日新聞社