バレンティン 記録更新を支えたID野球
元虎のスコアラーの分析
「ボール、ボールとなった時点で打たれると思った」 阪神で長年チーフスコアラーを務めてきた三宅博さんは、榎田のバレンティンに対する投球カウントが2-1となったところで56号アーチを予告していたという。 場面は一回一死二塁。 初球は、ど真ん中のストレートを見逃し。 2球目が外へボールとなるスライダー。 3球目にインコースに139キロのストレートを見せたが、続く、137キロのストレートを仕留められた。やや外角の甘いボールだった。 「日高は、ずっと外に構えていたけど、ボールの高さが全部、真ん中で甘かった。記録から逃げる逃げないは別にして試合に勝つということが大前提としてあるわけで、一塁が空いているんだから歩かせていい場面。でも、榎田のコントロールが不安定で、まともな組み立てができなかったのだろう」 57号もカウント3-0からの内への甘目のスライダーを見逃さなかった。 元007は、バレンティンの本塁打量産の秘密として「頭がいい。配球を読んでいる」というID野球の活用点に注目している。 「バレンティンは、配球を読んでいるよね。じっと我慢してホームランの打てるボールを逆に呼び込むような配球の読みをしている。つまりなんでも打ちにいくのではなく、バットを止めることで相手投手が、バレンティンのホームランゾーンに投げざるを得ないように追い込んでいるのだ。私は、1985年に54本塁打を打ったランディ・バースを担当スコアラーとして見ていたが、右打者、左打者の違いはあるが、そういう狙い球の絞り方と、頭の良さは、バースに似ているよね。日本で活躍できる選手の条件なのかもしれないが、この3年で、日本野球に対応したことが大きい」 バレンティンの本塁打をカウント別に見ていると、最多の11本が初球。続く9本が1-0、3-2である。三宅さんは投手側からすると初球の選択が一番難しいカウントだと言うが、まさに狙った初球、我慢してカウントを逆に追い込んだフルカウントにホームランが多いことが、彼の優れた配球の読みを示しているだろう。 「ヤクルトは野村克也さんの監督時代からデータを使うという伝統が脈々と受け継がれている球団。そういう球団色もバレンティンのデータ利用を助けているのだろう」