バレンティン 記録更新を支えたID野球
制球力のない投手の配球は通用しない
ちなみに、三宅元スコアラーが、もし阪神のスコアラーならば、どういう風にバレンティンを攻めるのだろうか。 「ピッチャーには、まず『四球でOK、ヒットならOK』という考え方を持たせる。1本のヒットならば打たれてもOK、というシチュエーションをバレンティンの前に必ず作っておくこと。そこで長打を避ける配球を徹底させる」 それでも、どうしても勝負をせねばならない状況も出てくるだろう。 「その時は、やはりアウトコースへ低目、インサイドの見せ球の対角線を使ってカウントを作り、“焦らせる”こと。縦にストンと落とすスプリット、フォーク系をウィニングショットに使う組み立てが基本になるだろう。外のボールになる変化球は我慢しているが、縦に落とすボールには手を出してくる。空振りが多いのも、そのあたりのボール。配球を読み、狙い球を絞って踏み込んでくるので、その体勢を崩すためのインサイドのボールというものも必要になる。今日も、ひとつインサイドを使ったのに、踏み込んで打たれたのは、肝心の外のボールのコントロールが甘かったのだ。コントロールのないピッチャーは、バレンティンにとってはカモだろう」 確かに複数ホームランを献上しているピッチャーを調べてみると、広島の大竹の4本を筆頭に、3本打たれてるのが、横浜の吉川、2本が阪神の榎田、横浜の土屋、中日の岡田、ロッテの成瀬、日本ハムの武田勝、広島のマエケン投手の6人。マエケンと武田勝の2人はコントロールのある投手だが、残りの投手の顔ぶれを見るとコントロールが不安な投手ばかりだ。マエケンは高目の“クソボール”をホームランにされたので、2本目は論外と言えるかもしれないが、いずれにしろ制球力のない投手はバレンティンには通用しない。 残り試合などを考えると、日本記録更新されるのは、時間の問題ではあったが、阪神が、その不名誉な役を担ってしまったのは、阪神OBの三宅さんにとっては寂しい事件。 「おそらく王さんの記録なんてことは、23歳の榎田にはピンとこなかったんだろう。野村克也さんが、『メジャーで通用しなかったような外国人に選手に記録を破られなんて恥ずかしい』と発言されていたが、王さん、長嶋さんの時代に強烈なライバル心を抱きプレーしてきたノムさんだからこその思いで、もう時代が変わり過ぎて、そういうプライドを持つような感覚が榎田なんかには、なかったんだと想像するよ」 時代は変わっても、研究熱心で、日本野球への順応力の高いパワーヒッターが、記録更新の資格を持つという定義だけは変わらないのだろう。 (文責・本郷陽一/論スポ)