芥川賞受賞の古川さん「俺、これからどうなるんだろう」
第162回芥川賞は、古川真人(まこと)さん(31)の「背高泡立草(せいたかあわだちそう)」に決まった。15日夜、都内のホテルで開かれた記者会見で古川さんは「何でこうなっちゃったんだろう。俺、これからどうなるんだろう、というのが率直な気持ち。悪い意味ではなく、自分が急にとんでもない場所に出ていっている、と思いました」と受賞の感想を口にした。 【中継録画】芥川賞に古川真人さん「背高泡立草」、直木賞に川越宗一さん「熱源」 受賞者が会見
今後は“島から出てみたい”
古川さんは1988(昭和63)年、福岡市生まれ。2016年の「縫わんばならん」で小説家デビューし、第48回新潮新人賞を受賞した。芥川賞には過去、デビュー作のほか、2017年の「四時過ぎの船」、2019年の「ラッコの家」が候補作となっていた。 今回4度目のノミネートでの受賞となったが、「うれしさというのはまだないです。おそらく2日後、3日後に、生活が日常に帰るとしみじみ感じることもあるかもしれないが」とまだ実感が湧かない様子だった。 受賞作は、長崎の離島を舞台に、主人公の大村奈美という女性の一族の歴史にまつわるエピソードがつむがれる。古川さんは以前から、島を舞台にした作品を書き続けてきた。「(作品によって)主人公も登場人物も語り口もガラっと変えられる言語の運動神経の良い作家さんはいますが、自分はあくまでも同じことをくどくどと、でももし読んでもらえたらとっくりと伝わる、という歩みの遅い書き方しか向いていないのではないか、というのがずっとあったので、途中で器用に違うものを書こうとは、はなから思っていませんでした」と自らの作風を語る。 それを貫き続けて受賞に至ったが、「同じことを書き続けることと、いつか(読者に)通じるだろう、というのはちょっと違うと思っていたので、(受賞は)予想外でびっくりした」という。 新たな挑戦も胸に秘めている。今後書きたい小説について問われると、「まだ具体的にこうだ、というものはないが、やはり島から出てみたい。島のことを繰り返し書き続けると、自分自身の中で今まで触れてこなかったもの、触れたくなかったものを無視して、自分にとって書きやすいものを延々書いてしまうものであろうし、それを恐れます。今後書くなら、自分にとって不慣れな、まったく未知の他者が現れるような小説を書いていこうと思っています」と思いを語った。 (取材・文:具志堅浩二)