《俳優生活60年の若林豪》受け入れた“老い”「髪が薄くたっていい」「セリフが入りづらい」明かした人生最後の想い「もうあと1本セリフの少ない役を」
2025年公開の映画に出演
去年と今年は「声の花束」という朗読劇をやりました。打ち上げパーティーで気分が良くなって、珍しくビールをグッと飲んだら、目の前に霧がかかったようになって、自分が何を言っているのかわからなくなって、立てなくなってしまいました。お酒はもともと弱いんだけど、あんなことは初めてでした。 今年は2月に『神ノ島』という戦争映画を撮りました(出演した)。来年公開予定です。少ないスタッフがひとつになって、お金をかけずに撮って、小さな劇場で公開する小さな作品。もうお金をかけて大作を作れば大入りする、という時代じゃないですよ。『神ノ島』はいい作品です。ただ、自分としてはセリフを完全に覚えて行ったのに、いざ本番に入ると一言も出てこなくて……辛かったですね。 飲んでいなくても、ときどき頭の中にモヤがかかったようになるし、「演じるのはもういい」と思った時期もありました。でも、今はもうあと1本、セリフの少ないものをやってみたいな、という気持ちになっています。みなさんに「大丈夫ですよ」と言われても調子づかないようにしないと、とは肝に銘じています。そうしないと、俳優人生最後にして間違いをおかしかねない。そうならずに終えたいですね。
「明日死んでもニッコリ笑って逝けますよ」
振り返ると、共演者を家に呼ぶような、家族ぐるみの付き合いをした俳優仲間はいませんでした。別に秘密主義じゃなくて、子どもが5人──息子が3人、娘が2人いましたから、家の中がシッチャカメッチャカで家に呼べなかった(笑)。子どもが1人こっちで泣けば、ほかの子があっちで笑って。お手伝いも2人いたんだけど、とても追いつかない。でも、子どもはかわいかった。あのかわいさはどこにいったのか(笑)。今は本当にニクタラシイ。でも、やっぱりかわいいです。 孫は23歳から小学校1年生まで7人います。一番下の女の子は次女の子どもで、ドイツ人とのハーフ。かわいくてたまらんね! 目に入れても痛くない、とはこのことか、と。もっと会いたいけど、愛媛にいますからなかなか会えない。その子にあげようと思って、毎日500円玉貯金をしています。電話をかけると「じいじ、貯まった?」と聞くのがこれまたかわいくて、毎日電話してしまう。だいたい同じ時間に電話をするから、僕だとわかるんでしょうね。最近は電話に出なくなっちゃった(笑)。 仕事でもプライベートでも、やることはやって楽しんだから、もう明日死んでもニッコリ笑って逝けますよ。みなさんに「いざとなるとバタバタと慌てふためくよ」と言われ、そうなるかもしれない、とも思いますけど、これ以上長生きすると周りに迷惑かけますしね。みっともなくメソメソせずに、今なら女房の手を握って「ありがとさん」と感謝を伝えて、子どもたちにも「たくさん喜ばせてくれてありがとう」と言える気がします。これができれば素敵な人生! こんなことを言っていると、女房が「あなた、死にたい、死にたい、って言うわりにちゃんと薬飲んで、ちゃんと運動してるじゃない。よく言うわ」と言うんですよ。確かにそのとおり。何も言えません(笑)。 (了。前編から読む) ◆取材・文/中野裕子(ジャーナリスト) 撮影/村上庄吾