石油経済からの脱却を図るアゼルバイジャン 油田の枯渇が迫る中
持続可能な開発に向けた、アゼルバイジャンのソフト面での取り組み
バクーに拠点を置くヘイダル・アリエフ財団のレイラ・アリエワ副会長は、2011年から「環境活動に向けた国際対話(IDEA)」と題する取り組みを後援している。これは、世界自然保護基金(WWF)や国際自然保護連合(IUCN)といった国際機関を巻き込んだ官民合同の取り組みで、国内全域に環境教育を浸透させることを目指している。この取り組みの過去5年間の成果を詳細にまとめた報告書は、アゼルバイジャンに割り当てられた国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」にも沿っている。 IDEAの教育プログラムは初等教育から始まり、中等教育、高等教育へと段階を踏んでいく。IDEAの名は、今や街中の駐輪場から閣僚会議に至るまで、全国で認知されている。この取り組みの効果は、絶滅の危機に瀕しているコーカサスヒョウの生息地をはじめとする野生動物の保護区が全国各地に設けられ、支援の輪が広がりつつあることによっても実証されている。 次の段階としては、近隣諸国との対話を拡大し、国境を越えた活動による環境平和の構築がIDEAの目標になるのかもしれない。環境問題を通した交流は、時に政治的な対立を超える力を持つ。特にアゼルバイジャンと隣国アルメニアの緊張関係を巡っては、環境対話を通じて修復される可能性があると、チェコの政治学者シャルカ・ワイソワ博士も最新の著書で述べている。 アゼルバイジャンは10年以上前、天然資源産出国の資金の流れの透明性を促進するための多国間協力「採取産業透明性イニシアチブ(EITI)」に準拠していると見なされた最初の国となった。これは、天然資源の採取産業から得た収入を持続可能な開発に向けるという大胆な取り組みの先駆けとなり、アゼルバイジャン国家石油基金(SOFAZ)の管理に向けた重要な政策の策定にもつながった。 アゼルバイジャン政府は2017年3月、EITI理事会との意見の相違により、この多国間協力からの脱退を表明したが、先述のIDEAのような政府の取り組みは、持続可能な投資と市民参加の有望な兆候だ。実際、IDEAのWWFやIUCNとの協力関係は、アゼルバイジャンが国際的な公益団体と関わる能力が極めて高いことを示している。 同国を最近訪れた筆者のような学者や実務家は、さまざまな段階での進歩に感嘆しているが、自己満足に陥っている場合ではない。アゼルバイジャンが石油経済からの脱却に向けた計画を進める中、IDEAは国内の社会や経済のあらゆる部門に、全国規模と地域規模の両面で広範な影響を与える可能性を秘めている。
Saleem H. Ali