「凶暴な大統領ひとり変えたところで解決されない」…12・3内乱は総体的危機(1)
「時代精神と公論の場の役割」をテーマに ソウルで第1回ソーシャルコリアフォーラム開催 民主主義の退行の背景、原因とは?
「発展した市場経済、リベラルな市民文化、高度な情報通信技術を持つ韓国においては、長期的に独裁体制を維持することはできないだろう。しかし独裁体制の樹立、あるいは少なくとも独裁体制の樹立が暴力的に試みられるということは、いくらでも起こり得るし、独裁の樹立の阻止や打倒のためには多くの犠牲を払わなければならない」(シン・ジヌク中央大学教授) 歴史博物館に展示されていた戒厳がよみがえり、全国民がリアルタイムで生々しく目撃した2024年12月。1987年以降は廃棄された政治体制だと考えられていた「独裁」。その言葉が37年ぶりに改めて公論の場に登場するというのは、明らかに歴史的退行だ。いくら何でも民主化以前へと歴史の歯車を戻すことはできないだろうという認識と期待は楽観的すぎる態度だったということに気づいた今、中央大学のシン・ジヌク教授は、18日に「時代精神と公論の場の役割」と題して開催された第1回ソーシャルコリアフォーラムで、「それを阻む道は、そのような悲劇はやって来ないだろうという楽観ではなく、それが来ないようにする実践」だと喝破した。 ソウル中区(チュング)のフランシスコ教育会館で開催されたこの日のフォーラム(主催:ソーシャルコリア、ハンギョレ経済社会研究院、ハンギョレ仕事と人研究所)に最初の発表者として立ったシン教授は、今の韓国社会は「総体的危機」に陥っていると診断する。シン教授は、朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾と比較して「12・3戒厳事態」は、「尹錫悦(ユン・ソクヨル)と軍、警察、政府閣僚が組織的におこなった内乱クーデターで、民主主義、憲政、法治、自由、信頼、命といった韓国社会の根本的前提が崩れ落ちた事件」だと指摘しつつ、「今の韓国社会の危機が非常に深く重篤で、決して凶暴な大統領ひとりが変わったところで解決される問題ではないことを証明する」と述べた。シン教授は、12・3事態の前に複数の国際的な評価機関が韓国の民主主義、自由、人権の急激な後退を相次いで報告しつつ、さらに深刻な独裁化の可能性を警告していたとして、世界17~18位を維持していた自由民主主義指数(V-Dem研究所)の47位への低下、報道の自由度ランキング(国境なき記者団)の世界62位への下落などを示した。続いて「一時は世界の賛辞を浴びていた『K-民主主義』の記憶に酔い、急速に独裁化が進んでいることに気づかなかった」として、「そのような退行の過程の末、人々は最終的に、大統領と国防部長官の命令で国軍の最精鋭部隊が国会を占領し、市民に銃を向けるという内乱の破局を迎えるに至った」と述べた。 シン教授は民主主義退行の背景と原因について、過度に中央集中化された権力構造、政治的両極化と急進主義、陰の権力の強大化、不平等問題の解決の失敗の4つの要因が相互作用して「複合危機」を招いたと分析した。そして、勝者に過度な権力を与える構造のぜい弱さを強調した。「大統領に選出された人物が民主主義、人権、合理的ガバナンスを追求する人物であれば急進的な制度改善が可能だが、もし大統領が民主的規範と価値を無視する人物だったなら、この種の権力構造は非常に危険になる。時には大統領の力を借りて改革も行われたが、『諸刃の剣』の反対側の刃は危険すぎる」 シン教授は、韓国社会は民主主義と憲政秩序の回復を優先すべきだとして、「長期的に政治の領域において何よりも重要なのは、権力の分散と、権力乱用を制御するための制度改革の完成」だと提言した。 続いて政治分野の基調提起をおこなった国会立法調査処のイ・グァンフ処長も、民主主義の虚弱さをまず指摘した。イ処長は「戒厳を準備する過程で染みついた前近代的要素が民主主義を脅かしうる状況にあって、最終的な憲政的安全装置(国会による戒厳解除)の他には、権力構造そのものの中にこのような統治を制御しうる制度と民主的な政治慣行が十分に構築されていないということも確認された。1987年に樹立された韓国の民主主義は、軍部独裁への回帰を防げるくらいには堅固だが、統治の内容からそのような可能性をなくし、より良い民主主義へと向かうための基盤は十分ではない」と述べた。そして、今の状態を「民主主義の強固化に至る長い旅程において、霧が立ちこめる『灰色の地帯』をさまよっている」と表現した。 イ処長は、尹錫悦式の「ポピュリズム的独裁」は「政治的効能感」が低下すれば今後いくらでも再登場しうると述べた。「民主主義の最後の砦である国民が2度(朴槿恵と尹錫悦の弾劾)も民主主義を救ったにもかかわらず、3度目が起これば、その後の政治的効能感の低下は民主主義という制度そのものに対する信頼を低下させる可能性が高い…回復力だけを信じて、民主主義においてはいかなる指導者も誕生しうるというような安易な態度を取っていると、あるいは、よりよい指導者の育成と選出に不断に努めないと、民主主義は『慢心のわな』にはまってしまうだろう」 イ処長は、政治が復元されないと、民主主義はいつでも再び危機に直面する恐れがあると警告する。政治の復元を困難にする政治嫌悪と慢心のわなから脱するためには、実際の国民の生活の質をよりよくして「政治的効能感」を高めなければならないと提言する。 最後にイ処長は、「1度目の戒厳は悲劇に、2度目の戒厳は喜劇に終わった。3番目の戒厳はポピュリズム的なやり方であらわれ、ファシズムにつながる恐れがある」と述べた。(2に続く) リュ・イグン|ハンギョレ経済社会研究院先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )