『アンナチュラル』『MIU404』はなぜ特別なドラマなのか 野木亜紀子の“予言”の作品に
『MIU404』の“前向きさ”の象徴にもなっていた「感電」
物語は1話完結で『アンナチュラル』と同じように社会問題を背景にした事件が描かれる。だが、『アンナチュラル』がご遺体の解剖をきっかけに判明する事件を扱っているのに対し、『MIU404』は事件発生から24時間以内に被疑者を確保できなければ刑事課や本部の担当課に捜査を引き継ぐという時間制限が存在する。そのため、4機捜は常に捜査しており、伊吹が犯人を追いかけて全力で走るシーンがとても多い。ドラマ全体がアクティブで常に何かが動いているという印象だ。 『アンナチュラル』との違いは米津玄師の主題歌によく表れている。『アンナチュラル』の「Lemon」が、死者を悼むようなバラードだったのに対し、『MIU404』の「感電」は軽快なファンクとなっており、「しょうがねぇか」と思いながらも「今はやれることをやろう」と気持ちを切り替える、大人の前向きさを感じる。 辛い事件がたくさん描かれるが「感電」が流れると、少しだけ明るい気持ちになる。また、伊吹を演じる綾野剛の芝居も本作に明るさを与えている。理知的な主人公が多い野木亜紀子作品では珍しい「野生のバカ」の伊吹だが、彼の直感的な振る舞いと「自分も他人も信用しない」猜疑心の塊である志摩との掛け合いが面白く、2人のやりとりを観ているだけでも楽しい。 そして、本作を面白くしているのが菅田将暉が演じる“久住”の存在だ。違法ドラッグ「ドーナツEP」の売人として登場した久住は、匿名の悪意が実体化したような悪魔的人間で、様々な犯罪を起こして社会を混乱に陥れる。そんな久住との対決に、コロナの影響で一年遅れで開催されることとなった2021年の東京オリンピックに対する作り手の気持ちが込められたことで、激動だった2020年を象徴する同時代性のあるテレビドラマに本作は仕上がった。 『アンナチュラル』と『MIU404』。どちらも良質な1話完結ドラマであると同時に連ドラとして面白い社会派エンターテインメント作品の傑作と言えるだろう。『ラストマイル』をこれから観る方はもちろん、観終わった方が観ても楽しめるテレビドラマである。
成馬零一