周東だけじゃない「伝説の神走塁」 過去には「二塁から犠牲フライで生還」という“異次元の走り”も
侍ジャパンを救った「神走塁」
2013年のワールドベースボールクラシック(WBC)で敗戦寸前の侍ジャパンを救う鮮やかな神走塁を披露したのが、鳥谷敬(阪神)である。 3月8日に東京ドームで行われた第2ラウンドの台湾戦、1点ビハインドの9回1死から四球で出塁した鳥谷は2死後、1球けん制を受けたあと、次打者・井端弘和の初球にスタートを切る。 ベンチから盗塁のサインは出ていなかったが、試合前のミーティングで「行けたら行け」という指示が出ていた。台湾のクローザー・陳鴻文が「クイックはそんなに速くない。けん制は1回しかしない」という情報も、究極の決断をあと押しした。 このとき、ベンチの山本浩二監督、コーチ、チームメイトの誰もが走るとは思っていなかったという。もしアウトになればゲームセット(敗戦)という極限状況のなか、「アウトになることは考えなかった。腹をくくって思い切っていくしかないと思った」という鳥谷は、二塁にスライディングし、間一髪のタイミングながらセーフ。一打同点の2死二塁とチャンスが広がった。 そして、高代延博守備走塁コーチも「あれがなかったら終わっていた。彼に救われた」と絶賛した一世一代の走りが流れを大きく変える。 井端もカウント2-2から中前へ執念の同点タイムリー。土壇場で追いついた侍ジャパンは3対3の延長10回、中田翔(日本ハム)の犠飛で勝ち越し、決勝トーナメント進出に王手をかける大きな1勝を手にした。 積極果敢な“足攻”で奇跡的な同点劇を呼び込んだヒーローは「野球人生で一番興奮しました。この日の夜は初めて寝づらいなと感じるぐらいでした」と回想している。 久保田龍雄(くぼた・たつお) 1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。 デイリー新潮編集部
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