遠い恒星へと旅するのに必要な驚愕のエネルギー 光速の50%を超える速度で飛行するとしたら
また、目標の天体に到着する直前に減速する必要があるが、この減速のために要求されるエネルギーは2倍になってしまう。人間を数人乗せて太陽以外の恒星に向かう宇宙船を加速するのに必要なエネルギーを考えると、その数値はさらに気が遠くなるほど大きくなる。 人間が搭乗可能な大きさの宇宙船に関するさまざまな研究を評価したある論文は、そのような宇宙船の質量は、約107 から1010 キログラムだと推定している。 質量107
キログラムの宇宙船が完璧な効率で0.1cまで加速するためには、4.5×1021 ジュールという唖然とするようなエネルギーが必要になる。 ■エネルギー変換の効率の問題 要求される運動エネルギーのほかに、高速度に達するのを一層困難にしているのは、ある推進システムが推進剤を有効な推力に変換する効率(ほぼ常に、100%にはほど遠い)と、その推進システムで使用する推進剤に固有なエネルギー密度だ。高エネルギー密度推進剤を高効率で推力に変換するシステム以外は使いものにならない。
エネルギー変換をもっと広い視野で捉えるために、典型的なガソリン車がガソリンを運動に変換する効率を考えてみよう。 ガソリン車のエンジンでは、ガソリンが点火されて燃焼し始め、ガスが生じて膨張する。膨張するガスの運動エネルギーはピストンの運動に変換され、それがさらにクランク軸の回転運動に変換される。クランク軸の回転が車輪を回転させることで、回転運動が自動車の直線運動へと変換される。 各ステップの効率の悪さを足し合わせると、ガソリンを自動車の運動へと変換する、最終的な全体としての効率は50%以下になってしまう。
でも、ちょっと待って。この例で、私たちはガソリンから話を始めた。ガソリンの原料は石油だが、石油をガソリンにする過程にはさまざまな段階に効率の悪い箇所がある。 また、宇宙飛行専用の推進剤について考えるとき、推進剤の製造過程や推進システムの製作過程に存在する非効率性は無関係と見なすのが普通だ。なぜなら、それらが総飛行時間や宇宙船の大きさに影響を及ぼすことはないからである。 しかし、一連のコストや、推進剤製造に必要なインフラについての議論となると、それらの非効率性も問題になる。