遠い恒星へと旅するのに必要な驚愕のエネルギー 光速の50%を超える速度で飛行するとしたら
民間企業による宇宙飛行が実施されるなど、宇宙はかつてないほど身近になっている。しかし、太陽系を離れた恒星への旅についてはどうだろうか? 私たちはいつか、遠い星まで出かけ、そこに住むことも可能になるのだろうか? 今回、NASAのテクノロジストである物理学者が、光子ロケットや静電セイル、反物質駆動、ワープ航法など、太陽系外の恒星への旅の可能性について本気で考察した『人類は宇宙のどこまで旅できるのか:これからの「遠い恒星への旅」の科学とテクノロジー』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。 【写真を見る】NASAテクノロジストの物理学者が本気で考えた宇宙トラベルガイド
■どれほどのエネルギーが必要なのか? 遠い恒星への旅を可能にするために必要な各種の技術を紹介する前に、恒星間の途方もない距離を飛行するのがいかに困難かを、「ミッションを妥当な期間で完了するために必要な速度まで探査機を加速するのにどれだけのエネルギーが必要か」に注目してお話ししておくことは役に立つだろう。 また、「妥当な期間」という言葉にも再定義が必要だ――それは、あなたが考えておられるような長さではないだろう。
そしてさらに、ときどき持ち上がる、倫理上の問題にも触れておかねばならない。 ある宇宙船が100%の効率でエネルギー源を推力に変換できたとしても(実際には不可能)、1キログラムのもの――現在打ち上げられている最小の宇宙機の質量と同程度――を光速の10分の1(0.1c、秒速約3万キロメートル)まで加速するには約450兆ジュールのエネルギーが必要である。 これほど大きな数が出てくると、人間はぼーっとしてくる。もっと実感が湧くような単位で言うと、どれくらいだろう?
火力発電所で燃やされる石炭の量を考えてみよう。理想的な条件のもとでは(そんなことは実際にはあり得ないが)、1キログラムの石炭は約2300万ジュールのエネルギーを生み出す。 すると、私たちが今考えている1キログラムの宇宙船が0.1cに加速するには、約1900万キログラムの石炭を100%の効率で燃やし、その燃焼で放出されるエネルギーをすべて取り込まなければならないということだ。 720キログラムのボイジャー探査機と同じ大きさの宇宙船を0.1cに加速するにはこの720倍のエネルギーが必要で、それは1年間の全世界のエネルギー出力の約0.06%に相当する。