「低反発は使ったことがない」 サヨナラ導いた木製バット センバツ
◇センバツ高校野球1回戦(21日、甲子園) ◇○青森山田4―3京都国際● センバツで木製バットがこれほど美しい軌道を描いたのはいつ以来だろうか。3―3の九回1死、「低反発バットは一度も使ったことがない」という青森山田・吉川勇大が、木製バットで中堅を越える三塁打。続く伊藤英司の左前適時打で、サヨナラのホームを踏んだ。 【熱戦を写真で】京都国際-青森山田(1回戦) 新基準の低反発バットが導入された今大会。対応に苦しむ選手が多い中、吉川とチームメートの対馬陸翔の2人は木製バットを選んで聖地に立った。 プロを目指す吉川は、下級生のころから木や竹のバットで練習してきた。昨秋の公式戦後、他の仲間たちが低反発バットに持ち替えるのに目もくれず、「木製の方が飛ばせる気がした」と決断した。「本人たちが納得してやることが大事」と兜森崇朗監督もそれを認め、鍛錬を積んできた。 通常は金属バットの方が飛距離が出るとされるだけに、リスクのありそうな選択だ。しかし、メリットはあった。下級生のころから主力の吉川は、力任せにスイングする傾向があった。しかし、折れる可能性のある木製バットを使うことで、丁寧なスイングが身についた。「(木製の方が)振り抜けるような感じがする」としっくりきたという。 その成果が一回の左前打であり、九回の三塁打。京都国際の小牧憲継監督も「うちの金属バットより振れていた」と脱帽した。 高校野球の金属バット導入は1974年にさかのぼる。その後、2004年大会で愛工大名電(愛知)の鈴木啓友さん(現・日本製鉄東海REX監督)が木製で安打を放った例などはあるが、あえて木製を使うケースは極めて珍しい。 ほとんどの選手が新基準の金属バットを使う中、木製を使えば注目が集まる。だが、吉川は「気にしていない」。センバツ100年の長い歴史において、重要な足跡を残したことは確かだろう。【岸本悠】