映画界の悪習打破へ是枝監督ら奔走、民間ファンドへ投資も呼び掛け
民間が映画ファンド
製作委員会方式の在り方に疑問を抱き、「新しいお金の集め方とか、配給、興行の仕組みを考えていく動きは必要」と指摘する是枝氏。新興の映画企画会社K2Pictures(ケーツー・ピクチャーズ)が映画製作ファンドを設立すると、岩井俊二監督らと、いち早く賛同を表明した。労働環境改善も目的としており、資金活用には国際水準を求める立て付けだ。
映画がヒットした場合には、監督だけでなく技術スタッフにも残余利益の30%を上限に成功報酬を還元する。作品ごとの資金調達ではなく、複数の作品をポートフォリオ化し、リスクを回避する。大手4社やテレビ局を除いた企業や投資家に声をかけており、年末には100億円全額を調達できる見込み。
同社の紀伊宗之代表取締役CEOは、「閉鎖的で意思決定の遅い産業を持続可能な生態系にしたい」と設立のねらいを語った。
「才能搾取」の構図にメスも
芸能分野の労働環境改善活動をする俳優の森崎めぐみ氏は11日、都内の集会で「徒弟制度が残り、パワハラやセクハラも多い」と指摘。「人権を考えられる環境ではない」と述べた。映画監督の深田晃司氏はスタッフ時代は時給300円程度で仕事をしたとし、「才能や努力よりも貧乏に耐えられる」かが試されると語った。
政府も動き出している。公正取引委員会の藤本哲也事務総長は4月の会見で、「一定の立場を得た事業者が、クリエイターの才能を搾取する構図が懸念される」との指摘があると述べた。音楽・放送番組への調査を既に始めており、年明けに映画にも対象を広げる。
政府が今月公表した「新しい資本主義実行計画」改訂版案では、省庁横断の「コンテンツ官民協議会」や、その傘下に映画に特化した委員会を設けると明記した。スタッフが持続的に働ける環境整備を図るほか、海外展開などの企画立案を行う。「クリエイター支援基金」も設立し、教育や人材育成も強化する。
官民が相次いで動き出した形だが、課題もある。是枝氏はファンドで投資家の目が入れば「ビジネスとしての映画製作」が求められ、大ヒットが見込まれない文化的な作品が作りづらくなる懸念もあると述べた。